運命は、少しずつ動き始める 3話
目の前では、どんどん船が組み組みあがっていく。
槌を打ち付ける音も何もしない、ほぼ無音で竜骨に板が張られていく。
「母さん、俺、スクーナーって言ったよね」
「うん、聞いたわ」
「ガレオン船並みに船体が大きい気がするんだけど」
「気のせいよ、今乗ってきたキャンピングカーとか収納するスペースが居るから大きくなっただけよ」
「そうか」
焚火を囲んで、肉を焼いたりダラダラと酒を飲んでいて、夜が明けた。
「ああ、すっかり寝ちまった」
正太郎は、目も前の半ば出来上がってる船に目が行った。
「なんだこれ?」
「テラフニエル!居るか!?」
「御身のお傍に」
「母さんたちは?」
「車で朝食の準備中です」
「ありがとう」
正太郎は、車まで走った。
「あら、おはよう」
「正太郎は、寝坊助ね」
「いや、俺の事はいい!それより」
「まぁまぁ朝ごはん食べてからでもいいでしょう」
「むむ、いただきます」
正太郎は、ベーコンエッグに手を付けた。
珈琲が欲しいと思った瞬間には、手元に来ている。
もう慣れた。
ネフィーにありがとうだけ言って母さんに向かい合った、
「母さん、あの船はなんだ?大きさについては、この際置いておくと。なんでマストにプロペラが付いてるんだ?船外にもプロペラが沢山付いてたよ」
「あら、よく見ているわね、でも、もう遅いわ、完成してしまってる」
「ねえ、船だよね?作ったの船だよね?」
「ええ、明菜と合作で作った自慢の船よ」
正太郎は、嫌な予感を抱えたままま海岸へ走った。
船だ、まごうことなく船だ。至る所にプロペラが付いている。
マストはある。でも、何でだろう帆が張られていない。
船首には、竜がかたどられた彫刻が載せられている。
明菜が、サンドイッチを持ってきた。
「そろそろ、出港準備が出来るらしいよ、正太郎、すごく難しい顔してる。何が心配なの」
「姉さんと母さんの暴走が怖い」
「またまたー、じゃあ、出港準備するよー!まず、車を積んじゃってー、積み込み次第、帆を張るよー!」
正太郎は、見た。
その船は、全長と同じくらいの葉巻型の形の帆が張られた。
「出港準備完了!荷物もしっかり積んだよー」
「船長は、正太郎ね。お母さんは、各部の点検に行ってくるわね」
伝声管から、声が上がる。
「出力全開、微速全身。出港だ!」
ゆっくりと船が進んでいく、進水して波を蹴立てていく。
正太郎は、形はともあれ、普通に船として海に出ることができて、正太郎は安心した。
数十メートル進んだところで、伝声管から叫び声が聞こえた。
「出力全開!ヨーソロー!全ての機関を繋げー船長命令だー!私は甲板に上がるからよろしくー」
正太郎は、嫌な予感がした。
頭上には、葉巻型の帆がどんどん膨らんで、マストや船外に取り付けられたプロペラが勢いよく回っている。
喫水線がドンドン上がっているのが、掴んでいる舵輪からも分かる。
「テラフニエル、俺の間違いじゃ無かったら、この船、空に向かって浮かんでいる気がするんだ」
「間違いありません、上部の葉巻型の帆は、引力を斥力を発生させてます。それらをプロペラを模したコントロール装置で船を動かそうとしていると思われます」
「つまり?」
「あと、15秒程で海面から離れます。また、これは飛空艇と呼ぶに相応しい船だと思われます」
正太郎が、頭を抱えていると、明菜が甲板に上がってきた。
「どうだ!弟よ!このロマン溢れる、わが船は!」
「どうじゃないよ!船は空飛ばない!お分かり!?」
「いやー、飛空艇ってロマンだよねー」
正太郎は、また、頭を抱えてしまった。
「姉さん、ちょっと真面目な話をするよ?敵が戦闘機を使ってきたら相手はマッハで動いていて、ミサイルとかも撃ってくるんだよ?」
「正太郎も、馬鹿ねー。そんなことお姉ちゃんでも知ってるよー」
「じゃあ、どうして飛んでるの!」
「まず、この船は重力を引力と斥力で飛んでるから亜光速まで加速が可能よ。敵のミサイルは熱源か赤外線とかなのでバリアで照準そのものが出来ないわ。当たったとしても天使の力で無力化されるわ」
「こちらの攻撃力は、天使の謎ビームとか言わないよね?」
「あら、分かっちゃった?」
正太郎は、もう諦めた。
恐らく、科学を上回った幻想の船だ。だが、飽和攻撃に耐えられるとは限らない。
正太郎は、伝声管に向かって叫ぶ。
「喫水ギリギリまで、低空を維持、財宝は詰んであるね。ネフィー!テラフニエルと一緒に飛んで通信機買ってきて、そのまま目的地まで全速前進」
そのまま、船は目的地の基地までの海岸に着いた。
「錨を下ろせ、浮上能力は維持のまま、周囲の警戒を厳に」
正太郎は、とても疲れていた。
主に精神的に。
「ネフィーが戻ってくるまで、ちょっと寝るよ」
ネフィーは、数時間で戻ってきたが、正太郎は起きられなかった。
真夜中過ぎに正太郎は、目を覚ました。
船は完全に稼働しているようで、食堂から良い匂いがしている。
ふらふらと食堂に向かうと、明菜が厨房に立っていた。
「あ、起きたのね。はい、ポトフが出来てるから食べて、もうすぐ夜明けよ」
「そう、ネフィーは無事に戻ってきた?」
「ええ。ちゃんと無事に戻ってきたわ、通信機も取り付けたから、受信も送信も可能よ。今日はどうするの?」
「基地まで、いってくるよ」
「一人で?」
「その方が何かあったときに対処しやすい」
「せめて、天使達も連れて行ったら」
「いや、今回は、俺一人で行く。天使達には、ここの隠ぺいに全力を尽くしてほしいと伝えておいて」
「これ以上、なにか言っても無駄ね。分かったわ」
「ありがとう。ごちそうさま」
正太郎は、天使達が海から引き揚げた財宝の一部を持って積み込んでおいたバイクを走らせた。