運命は、少しずつ動き始める 2話
次の日の夜。
目的地まで、後2日程で到着する予定だ。
正太郎は、母と姉がコソコソ何かをしているのは分かっていた。
しかし、現状自分では、どうにも案が浮かばないので何も言えなかった。
今日は、ネフィが食事を作ってくれた。
素朴な野菜のスープとパンだ。
ネフィは料理が出来ないというわけではない、それまでの生活環境から食材を節約しようとする癖が出る。
だからといって、不味くはなく栄養もしっかり採れる。
なにより、温かで緊張がほぐれる味なのだ。
「で、母さん達は何を内緒にしてるのかな?」
二人があからさまにビクッとなった。
「二人で船の設計と製造プランを考えてたのよ。大き目のスクーナーだったわよね。その材料になる樹木を探してもらってたの」
真雪が、ミカエルから資料を受け取りながら答えた。
「ついでに海洋調査の結果も受け取っておいたの。えっと、海は減ったけど塩分濃度その他の変化はないみたい。文字通りそのまま持っていかれたみたいね。海洋資源は残ってる。材料となる木だけど、見つかったわ。残された海が一種のオアシスのようになって水が循環してるわ」
「って、ことは、このまま真っすぐ海に向かうと森に突っ込むってこと?」
「ええ、そうね。通常ならそうでしょうけど船の材料に使うために伐採してあるから、このまま進みましょう」
「了解、それじゃそのまま進むね」
荒野から草原へと段々と植生が変わってくる。
そして、森が見えてくる。
「母さん、あれが森?すごく高い壁の様に見えるんだけど」
「そうよ、木材を使用しなくなってからずいぶん経つのと悪魔達の魔力に影響されたのかとても大きくなっているわ。でも、ほら道ができているでしょ、あそこへ向かって」
「それにしても大きすぎでしょ、高さなんて50メートルくらいあるよ?太さなんて考えるのもバカバカしいくらい太いし。物語で読んだこれが世界樹ですって言われても納得しちゃうくらい」
「それは、いくら何でも言い過ぎよ、世界を支えているわけでもないし」
真雪は、クスクスと笑いながら後部へ戻っていった。
「海、楽しみですね」
ネフィーが嬉しそうに声をかけてきた。
「そう?俺は普通かなー、大分小さくなってるっていうし。あ、でも、魚は楽しみかも」
「正太郎君は、結構食いしん坊ですよね」
ネフィがコロコロと笑うものだから、正太郎は少し照れてしまった。
「ネフィー、何か飲み物持ってきてくれない?って、既にある!」
正太郎の座席に取り付けられている、カップホルダーにジュースのペットボトルが刺さっている。
さっきまでは、空だった。だから、正太郎は頼もうとしたのに?
「ネフィー?なにかした?」
ネフィーは、コロコロと微笑むだけで答えてはくれなかった。
正太郎は、そのまま車を走らせる。
夜になって、車を一旦停めて野営を行うか、このまま進むのか決めかねていた。
道は、一直線だが何が飛び出してくるか分からない。
それは、このまま留まって野営をした場合も、野生動物や他の傭兵に襲われるかもしれない。
結局、今回は夜通し走ることにした、遮蔽物が多い場所では攻めるには良いが守る場合には相手の発見が難しい。
まぁ、どちらにしても天使に監視をさせれば良いのだが、心が逸った。
そのまま、走り続けて日の出を迎えた頃、森を抜けた。
森の先は、白い砂浜が広がっていた。
「「「綺麗」」」
女性陣の全員が感嘆の声を上げた。
「しまった」
正太郎は、何も考えずに真っすぐ海に向かって走ってしまった。
その結果、オフロード仕様とはいえタイヤは砂を噛んで空回りを始めてしまう。
それから、いくらエンジンを吹かしても車は動かなくなってしまった。
「疲れたし、今日は、このままここで野営でも良いかな?」
「正太郎も運転しっぱなしで疲れただろうし、お母さんは賛成よ。ついでに、ここで船の建造をしてしまいましょう」
「お姉ちゃんも賛成です。車の事は明日考えたらいいわ」
「ありがとう。ねえ、母さん。こんな所で船作ったら目立って仕方ないんじゃない?」
「ミカエルとガブリエルに確認したら、設計図が出来上がっているから2日で出来るそうよ、伐採も終わって材料の確保も終わっているわ、必要な金属素材も海底から十分手に入ったらしい、なので加工と組み立てで2日らしいわ」
「さすが、天使の不思議パワーだ。本当なら乾燥とか色々いるんだろうに」
正太郎は、呆れて言葉にならなかった。
「森もあるし、焚き木拾ってくるから、バーベキューでもしようよ」
「正太郎にしては良いアイデアね。ポチ、タマ、森へ行って何かお肉になりそうなの採ってきてよ」
二体の天使は、目を輝かせて森へと飛んで行った。
「狩るのは、ほどほどにしておけよー」
正太郎は、車から護身用にショットガンを持って、焚き木を拾いに森へ向かった。
「まってー、私も行きます」
ネフィーがトコトコと大きなリュックを持って追いかけてきた。
そういえば、拾った焚き木を持って帰る入れ物用意してなかったと正太郎はぼんやりとネフィーを見た。
「さぁ、行きましょう」
ネフィーは、張り切っているのか、ふんすと気合を入れている。
伐採された木々の後には、手頃な枝が沢山落ちていた。
正太郎は、周囲を警戒しながらも枝を拾ってはネフィーのバッグに詰め込んでいく。
「ネフィー、バッグ重いだろ、俺が持つから貸して」
正太郎が枝を入れ過ぎたのか、立てなくなっていたネフィーからバッグを受け取ると両手に持てるだけの枝を抱えた。
ネフィーも正太郎に倣って枝を抱えて、車へ戻った。
「こんなに居るの?」
「たぶん、これでも足りないと思うよ。恐らくポチとタマが大量に狩ってくると思うし、天使の何体かは興味を示すと思うし、さ、あと何往復かするよ」
最終的に明菜にキャンプファイヤーでもする気?と呆れられたくらいに集めてしまった。
肉を焼く良い匂いと、焚火の明かりが心を癒してくれる。
「天使たちは、食べないのかね?」
正太郎は、感覚的に天使も近くにいる天使が食事をするので食べるものだと思い込んでいた。
ミカエルが答えた
「天使が食事をすると堕天する可能性が高いので基本的に食事しません」
「え?じゃあ、バリバリ食べてるポチとタマって堕天使なの?」
「不思議なことに、神聖が損なわれてないどころか神格が上がっています。理解に苦しむ状況です。貴方のそばに居るテラフニエルもバルキアケルもです。地上の物を食することは穢れる始まりなのに不可解です」
「おれには、よく分からないから母さんと相談してよ。食べたいと思ったら食べたらいいんじゃないかな?」
しばらくすると、ポチとタマが戻ってきた。
鹿が一頭に、ウサギが4羽。
普通すぎる、もっと山盛り狩ってくると思っていた正太郎は、姉はあれでも天使はしっかりしているんだと思い知った。
結果的に、2、3日分の焚き木はあるので、細く切った枝を串にして肉を焼いていく。
その夜は、久しぶりにゆっくりした。
持ってきたワインを明菜はラッパ飲みしている。
俺は、缶ビールを呑んでいる。