運命は、少しずつ動き始める 1話
家に着くと、大騒ぎになった。
「お母さーん、正太郎が彼女連れてきたー!」
「あらあら、まあまぁ、座って座って」
「お義母さま、お義姉さま。ネフィリムといいます。よろしくお願いします」
「あらあら、正太郎がこんなかわいい子連れてくるなんてお母さん予想してなかったわー」
「正太郎も隅におけないわねー」
「いや、情報屋に押し付けられた」
「私の事、嫌いですか?」
ネフィが涙を溢れださんばかりに、こちらを見つめている。
「いや、そんな事ない!むしろ、ネフィみたいな美人が傍に居ていいのか迷う。正直照れくさい」
「そんな美人だなんて、普通ですよ。むしろ何の取り柄もない正太郎君の傍に居ていいのか、そうですよね、押し付けられたって言われても仕方ないですよね」
正太郎は、ネフィの両手を握って、その目を見つめた。
傍に居てくれと。
正太郎もどうして自分がそんな事をしたのか分からない。
それでも何故か惹かれてしまった。
「傍に、いてくれ」
「キャー!正太郎の生告白だー」
「あらあら、今日はお赤飯かしら」
「ちゃかすなー!」
「では、正太郎様、真面目な話ならばよろしいですか?」
テラフニエルを筆頭に天使たちが無表情のままこちらを見ている。
「な、なんだ?」
「その娘の気配は異常です、何者ですか?」
「天使と人間のハーフだそうだ、危険はないと判断している」
「了解しました、失礼をしました」
その後も大変だった。
主に女性陣が。
張り切って食事を作ってくれるのはいいが、備蓄を考えて欲しかった。
あと、ネフィは一緒にシャワーを浴びようとして正太郎に断られ、泣いているところに明菜に童貞は外堀を埋めていかなきゃとアドバイスしていたり。
いつの間にかネフィーと一緒に寝ることになり、焦っている間にネフィが熟睡したりと正太郎は早く引っ越そうと心に誓った。
思い立ったが吉日、必要最低限の私物をトレーラーハウスに積んで、目的地まで向かうことにした。
傭兵は、移動報告を必要としない、機密情報を持っていれば追手がかかるだけである。
こうしてトレーラーハウスは荒野をのんびり走っている。
「後、どれくらいかな?」
正太郎はGPSを確認しながら呟いた。
遥か昔には、道路が整備されていたため目的地まで案内してくれるカーナビゲーションシステムなんてものが存在していたと情報屋は言っていたことを思い出していた。
現在は、アスファルトの残骸が点在しているのみで基本的に荒野が続いている。
樹木が密集している森や密林なんてものが存在していたらしいが、星から水分の大半がなくなってしまったため、ごく限られた地域のみに存在しているらしい。
「うーん、基地までだと一か月かー結構遠いな、まぁ目的地までは4日ってところかな。海なんて初めて見るから楽しみだ」
正太郎たちは、基地まで直接向かうのではなく海から向かうことにした。
また、海へ派遣していた天使達との合流を目的としていた。
しかし、全ての天使を同行させることは出来ないため、天使達のその後の事を検討して実行してもらわないといけない。
そのため海までの時間でそれを話し合うつもりだ。
そのまま走り続けて、陽が陰ってきたところで車を停車する。
遮光カーテンを広げて、中の光が全く漏れないようにする。
外の監視は天使たちにお願いしている。
「まず、船の形を決めないといけないと思うんだ」
「そうね、この車ごと入れるようにして、攻撃力も防御力もステルス性能も高くないといけないって、普通に考えたら無理よね」
「やっぱり、母さんもそう思う?だから、資料から天使に作ってもらう形になるのかと思うんだ」
「そうね、天使を変化させて船にするかと思ってたけど、違うのね?」
「うん、天使を素材に使うと嫌な予感がするんだ、何より補充が効かないよね?攻撃力としては必要だと思う。船に通常火器を積み込むと足が付くし」
「そうなると、最新鋭の戦艦とか無理よ?私達には、工場も何も無いんだから」
「正直、困ってる。一応案としては、どこか木があるところから帆船でも作るとか考えているんだ、動力は天使に風を起こしてもらえれば十分な速度が出ると思うし」
「そう、なら風を捕まえやすいスクーナーより、船体の大きなシップ・スループが良いかしらね」
「いや、大き目なスクーナーにしよう。最悪、僕たち以外でも運用できるようにしておこう。別に小舟を作って、車は曳航していこう」
「正太郎がそれでいいなら、母さんは反対しないわ」
「まぁ、それも樹木が見つけられたらってことだよね、その時は、天使たちに船になってもらうよ」
それからの道程で、帆船の設計図やらを真雪が探しながらの移動となった。
正太郎が、黙々と運転している後ろ。
真雪が、船の設計に四苦八苦している間に、明菜が絵を描いている。
「お母さん、こんな感じの船ってどうかな?」
「あら、面白いわね、その方向で進めるわ、くれぐれも正太郎には内緒でね」
「絶対気が付かないわよ、助手席にネフィちゃんが座ってニコニコしているから緊張しているみたいだし」
母と姉は、ひっそりと天使に指示を出して情報を集めるのだった。