未来は、まだ、分からない 22話
「そんなのやだよ!」
明菜が、玉座に駆け上がると、腹部の大きな杭に触れた。
杭は、明滅した後、消えてしまった。
{どういうことだ?}
明菜は、羽に刺さった杭も手に刺さった杭も触れると消えてしまった。
{私は、自由になったのか}
恐る恐るマステマは、玉座から立ち上がる。
{は、ははは、これで自由だ人間どもを全て駆除できる!ぐぼっ}
その瞬間、タマの延髄切りとポチのボディブローが綺麗に決まった。
{なぜ、たかが天使に私が傷つけられる}
「その前にいう事があるだろう」
ポチのフックが飛ぶ。
「お礼が先にゃ!」
フックでふっとんだ先にタマの膝蹴りが待っていた。
マステマは、ガリガリと床を削り明菜の前に差し出された。
「だ、だいじょうぶですか?」
{に、人間めー}
ミカエルとガブリエルが剣を交差しマステマの首にあてた。
「どうしよう、正太郎?」
「俺的には、殺す一択」
情報が得られたから見逃そうと思ったけど、その本質は変わらないみたいだ。
これは、この世界から消えてもらった方がいい。
明菜は何だか感情移入してしまったのか、彼を消すことには否定的だった。
だから、俺は、マステマを地獄に追い返すことにした。
「あ、あのマステマさん」
{なんだ、明菜とやら}
「これ、お弁当です、あと紅茶です。地獄は水が無いって。今はあるかもしれないけれど」
{これから消滅する私には持っていく術がない}
マステマが困った顔をする。
「私が送還陣を作ってやるそれでならもっていけるだろう」
珍しくミカエルが親切な事をいってくれた。
マステマは、明菜に一つの指輪を渡した。
「これは?」
{私はこれから地獄へ戻って力を取り戻す、明菜、どうしてもというときは、その指輪に叫べ私が駆け付ける}
「いいの?」
「ああ、何故だが私は君を守りたい」
マステマの背中には1対の翼が増えていたが、明菜は気づかなった。
「今度、会うときは沢山ご飯作ってあげるね」
そうして、マステマは、光り輝く魔法陣の中へ沈んでいった。
そして、自宅へ戻って数日後
「トップが居なくなって混乱すると思っていたけど平常運転だね」
マステマが居なくなったというのに、相変わらず基地は何事も変わらない。
長い目で見ればあるかもしれないが、地獄へ悪魔を送り返さないといけないとは母の談である。
「それで、これからどうするか何だけど」
「杭になった悪魔をなんとかして、地獄を切り離すんでしょう?みんなマステマさんみたいに磔になっているのかな」
「さぁどうだろう、もう一つ。悪魔を召喚して杭にした奴の正体を突き止めないと」
しかし、正太郎には手掛かりが何にもなかった。
「とりあえず、杭の悪魔を送り返すときに召喚した者を聞き込みしてしていくか、手掛かりを探してみるしかないか」
「じゃあ、次は一番簡単そうな所に行きましょうか」
真雪が食事をトレイに載せて台所から出てきた。
「簡単な所なんてあるの?」
「どこも一筋縄ではいかないけれど、比較的簡単かもって思うわ、まぁ危険が無いわけじゃないし、それに」
真雪が回りを見渡した。
そこには、ぎゅうぎゅうに詰まるように直立不動で立っている。
「流石に狭いね。引っ越しがてらそこへ行きますか。で、どこ?」
「リリスの勢力」
「そこ危なくない?そこの天使解放しちゃってるし、一応、敵対してたし、俺、潜入作戦とかしてるけど」
「大丈夫よ、一兵卒まで調べたりしないわよ」
「それもそうか、何よりこのまま此処にいるわけにも行かないか」
それから何処へ引っ越すか候補地を選ぶことにした。
「あんまり外縁部は、あんまり良くないよね。そもそもリリスが何処に居るか確認しないといけないもんね」
「そうね、後は海に近い方がいいわ」
「母さんどうして?」
「忘れたの?天使に海を調査させていたでしょう?その結果とこれからの展開も考えないといけないでしょう?」
そうだったと正太郎は苦笑いを浮かべ、天使達から冷たい目線を向けられた。
そんなこんなで比較的規模が大きくスラムがある基地を候補地に選んだ。
「というわけで引っ越すことにしたから」
「どういうことだよ」
「いや、手狭になったから情報屋を紹介してもらおうと思って」
「そうか、しかし他所の基地か」
情報屋は、唸る。
「どうかしたの?」
「ネットワークは、あるっちゃあるが」
「歯切れが悪いね、なんか理由があるの?」
「悪魔なんだわ、そいつ」
「悪魔かーそれは、相性よくないなー。そんなのが情報屋やっていたり天使と繋がりがあることにびっくりだけどね」
「そうだな、まともな傭兵は情報屋なんて使わないし、こちらが天使だとバレてない確率は低い。正直、何を考えているか分からん奴だ」
正直に困ったと正太郎は思った。
こちらは、完全に悪魔を敵に回してしまっている。しかし、引っ越し先の基地で傭兵登録をしたとしても機密事項は、どうしても裏から手を回さないといけない。
最悪、母親がハックした情報が頼りになってしまう、しかし、それでは生の情報が入ってこない。
「仕方ないよ、その情報屋とコンタクトの取り方教えて」
「分かった、そんな難しい事じゃない何しろ店を構えているからな」
「え?八百屋でもやってるの?」
「なんだ、知ってたのか」
「まじかよ!冗談のつもりだったのに」
「そいつとのやり取りも簡単だ、最初に野菜を買って支払いに金貨を渡せばいい」
「そんな簡単な、いや、電子マネー全盛のこの世界だと出回っていないから貴重だな、なるほど」
「それで対価は?」
「情報で払うよ、ここのトップが地獄に送り返された。しばらくは大丈夫かもしれないけど、天使と人間が狩られるかもしれないから退避準備をした方がいいよ。あ、月の裏に基地が出来つつあるから、逃げるなら其処かな」
「十分な情報だな、お釣りが必要なくらいだ」
「それなら、何人か天使をやって連絡手段を確立しておいてくれると嬉しいかな」
「了解だ、死ぬなよ」
「そっちこそ」
「あ、そうだ、俺から頼みをしてもいいか?」
「できることなら」
「娘を預かってくれないか?」
「いいけど、逆に危険じゃない?」
「娘は、ハーフだ。天使にも人間にも成れない。本来なら嫁と一緒に守ってやりたいが手が足りない。だから、お前に預ける。娘の希望でもあるしな」
「はぁ」
正太郎は、気のない返事をしたら目の前に珈琲が出現していた。
「不束者ですが、よろしくお願いします」
正太郎は、正直言葉にならなかった。
またも、気配を察知できずにいた。
少女は、父に促され自己紹介をした。
「こ、こんにちは、私はネフィリムといいます。親しい人はネフィって呼ぶので正太郎君にもそう呼んでほしいです。歳は13歳です。特技は機械いじりと珈琲をいれることです。将来の夢はお嫁さんです」
少女は、金髪をおかっぱに切りそろえている、身長はちょっと高くて160センチといったところか、体重は、スレンダーだとだけ思っておく。
あと、胸が大きい。
正太郎がチラチラ見ていることに気が付いたのか、隠すどころか腕を組んで下から持ち上げるようにしてアピールしている。
「正太郎、手を出してもいいが、責任は取れよ?」
ニヤニヤと笑う情報屋を後にして、正太郎は家路についた。
なぜか、ネフィも一緒である。
正太郎は、基地を離れるときに合流すると思っていた。