未来は、まだ、分からない 2話
受付嬢に手を振って正太郎は家路へ急ぐ。
彼の稼ぎは悪くない。
傭兵は基本的にチームを組んで作戦に当たるため、経費も掛かるし報酬も頭割りのため稼ぎが自然と少なくなる。
その代わりに安全マージンをとっているのだが。正太郎は危険なソロであるため稼ぎが多くなる。
彼の家は前線基地にある。
前線基地といっても兵舎や武器や車両の保管庫、出入りの業者の倉庫。傭兵の住居などが存在しており城砦都市化している。
実際に人口は非戦闘員を合わせると6万人を超えており、現在も増加を続けている。
前線基地であるため、敵の標的なることも懸念されるが、腕のいい傭兵と各種対空対地装備が整っていること、なにより任務の金払いがいいことが考えられる。
この基地の住宅事情は、流石にスラムは存在していないが、稼ぎによって低所得と高所得に分かれている。
高所得者は、軍の高級士官と同等の高級マンションのような施設に居を構えることができる。
基地の中にも入ることのできない難民などは、基地の外周にスラムに近い状態になっている。
正太郎は低所得層に居を構えていた。
「ただいまー」
「おかえり」
「おかえりなさい」
正太郎は、長屋が大半の低所得層の中では珍しい一軒家に帰ってきた。
彼が帰ると二人分の女性の声が返ってきた。
玄関を潜ると、一人の若い女性が正太郎を出迎えた。
「だたいま、お姉ちゃん」
「おかえり、正太郎」
「お母さんは?」
「え、ええ。ベッドで横になっているけど、体調は悪くないわ。あなたのおかげね」
「新しい義足はどう?」
「だいぶ慣れてきたわ、もう少しで松葉杖なしでも歩けるようになるわ。お医者様には走れるようにもなるって言われたわ」
「よかったね、僕も頑張ったかいがあるというもんだ」
「うれしいけど、あまり無茶はしないでね?」
姉と呼ばれた少女は、17歳くらいだろうか少し陰りのある顔をしているが美人と呼ばれる部類だろう。
彼女は、松葉杖を突いており、右足から微かな駆動音を出している。
「正太郎、おなか空いたでしょう?直ぐにご飯にするわ。シャワーを先に浴びてきなさい」
「わかったよ、お姉ちゃん。今日の晩御飯はなーに?」
「今日は、シチューよ。期待しててね」
「やったー」
正太郎は、そそくさとシャワールームに向かった。
正太郎がシャワーからあがると、見計らったようにシチューとパンが食卓に並べられた。
正太郎の顔が綻ぶ。
パクパクとどんどん口に運んでいく。
「母さんは、また寝てるのかな?たまには顔を見たいよ」
「そ、そうね。きっと正太郎の顔見たら元気になるわ」
「でも、そうそうゆっくりもできないんだ、次の依頼も探さないといけないし」
「あんまり無理しないでね、私もお母さんも大丈夫だから。ちゃんと食べてる?」
「うん、レーションばっかりで美味しくないし、カロリーが多すぎて肥っちゃいそうだよ」
「そうね、基地ではレーションばかりよね。野菜とかとても高いし。ちょっと買うの戸惑っちゃう」
「いいよいいよ、お母さんとお姉ちゃんには美味しいもの食べてほしいし、ちゃんと医者にも診せたいから」
「なんだか悪いわ」
「ぼくは、お母さんとお姉ちゃんがいるから頑張れるからいいんだよ」
正太郎は、笑顔を姉に返し、少し疲れたから寝ると言って寝室へ入っていった。
明日か、何日後には過酷な任務が待っている。
今は、この兵士をたっぷりと寝かせてやろう。
正太郎が寝室へ入ると、姉は、食器を片付けてダイニングテーブルを磨き上げる。
部屋は毎日掃除しているので清潔に保たれている。
しかし、彼女は溜息をついた。
弟を危険な仕事に就かせていること、それに頼らないと生きていけない自分。
とりとめのない思考が浮かんでは、消えていく。
少し彼女の事情を覗いてみよう。
色々なことが分かるかもしれない。
私の名は、明菜。今年で17歳になる。
今着ている服は、この基地から支給されているツナギのような服だ。
これでも私のような何の取り柄もない人間には十分すぎる代物だ。
他にも弟の正太郎が買ってくれたヒラヒラした服とかあるがさすが贅沢すぎて普段着にはできない。
正太郎が稼いでくれるおかげで私たちは、基地の中ではかなり裕福な生活ができていると思う。
私には、片足がない。
食料の配給と買出し行く途中に誤って地雷を踏んでしまったのだ。
幸いにも命に別状はないとのことだった。
いつかは、こうなるかもと覚悟はしていたつもりだったけど、いざとなると目の前が真っ暗になった。
それからだ、弟の正太郎が危険な任務を受けるようになったのは。
それまでは、哨戒任務など比較的安全な任務だったが、破壊工作や敵部隊のせん滅が主な任務になった。
そして、正太郎が私を基地の中で最大の病院に連れてきてくれた。
有無を言わさず私の足には機械の足が接続された。
最初は違和感があったが、最先端の技術なのかすぐに違和感はなくなった。
まだ、松葉杖なしでは、歩くことも走ることもできないが、リハビリを続ければ、この足で自由になれる。
きっと、とてもお金が掛かったから正太郎のためにできることは、この足であるいて市場で食材を買って栄養をつけてもらうことだ。
あとは、無事に帰ってきてくれるように、毎日お祈りをすることにした。
正太郎に隠していることがばれないことを含めて。