未来は、まだ、分からない 19話
「と、とりあえずお前らの事はいい。なんとか天使を探して協力してもらえないか頼まないと」
「その必要はないぞ?天使はお前の味方だ」
「なんで!?」
「お前は、スラムの住人に良くしてくれている。みんな知っている、それに連れている天使からの信頼も厚いみたいだしな」
「スラムがどうしてここで出てくるんだ?」
「分からないのか?ここのスラムの住人は半分くらいは天使だ。気が付かなったのか?」
「全然気が付かなった、っていうか興味がなかった」
「まぁそうだろうな、その天使のネットワークを使って俺は情報屋なんてものをしてられるわけだ」
「そうか、そのネットワークは心強いな」
「当面の目的は、各勢力の天使の顕現で良いとして、問題は悪魔の居場所と攻撃タイミングってところかな」
「そうだな、同時に攻撃できるだけの戦力がこちらに無いし、防衛準備されると面倒だしな」
「まったく、困った状況だよ」
「とりえず、ここに長居しても仕方ない。そろそろ戻るぞ」
正太郎たちは、情報屋のカウンターで温くなった珈琲に口を付けた。
少しずつ体制は整ってきているとは思う。
しかし、敵の情報が殆ど手に入ってきていない。
「そういえば、いまのこの世界は地獄と合体しているんだよね?それを支えている4体の悪魔以外の悪魔、もともと地獄に居た悪魔はどうしているんだ?」
「言われてみれば、下級に悪魔を見ないな。ちょっと探ってみるか」
情報屋は眼帯を付けながら正太郎に返した。
「その辺も、母さんに聞いてみた方が早いかもしれないかも」
正太郎は、トレーラーハウスに戻ってきた。
「母さんに情報収集を頼みたいんだけど」
「どんなこと?」
「普通の悪魔がどうしてるか、知りたいんだ。この世界が地獄と合体しているなら普通の悪魔がウロウロしててもおかしくないと思ってさ」
「そういえばそうね」
母が、顎に手をやって考えているとミカエルが代わりに答えてくれた。
「この世界が地獄と同化しているというのは正確ではありません、一部分、入り口程度が繋がっているいうのが正しい認識だと思います」
「でも、海とか大分無くなっちゃたわよ?」
「天界と同じく地獄も正確には別次元に存在しています、しかし、水がほぼ存在していないためこの世界の水を吸収した形です。宇宙空間で宇宙船に穴が開くと中の空気が吐き出される現象に近いと認識いただければと」
「ああ、どっかでそんな話を読んだことがあるな。なるほどね、それで悪魔がウロウロしていない理由は?」
無表情なミカエルの眉間に怪訝な皺が寄せられる?
「何をおっしゃっているのか意味が分かりません」
「いや、だから」
「悪魔なんてそこら中に居るじゃないですか」
「どういう事だ?見たことないぞ!?」
「この世界に人間は、貴方の思うよりずっとずっと少ないんですよ?この世界は、人間同士が戦争しているとでも思っていたのですか?」
「そんな、俺が戦ってきたのは」
「ほとんどが悪魔です」
「最下級の悪魔の戦闘力は武装した人間と変わりません、その点、貴方がソロでいることは僥倖です。どの悪魔にも情報を握られていないのですから」
正太郎は、噛みしめるように考える。
「人間は、悪魔を殺せるのか?」
「不可能です、しかし、この世界に受肉してしまった悪魔は、その体を破壊されると魂が地獄へ戻されます、消滅したわけではないのでまた戻ってきます」
「現状、悪魔はどのくらい居るんだ?」
「基地内の傭兵は7割は悪魔です。残りが人間だと思われます。ちなみにスラムでは同様に7割が天使です」
「スラムは天使に守られているとして、基地内でなんで人間が生きていられるんだ?」
「は?」
ミカエルは、まるで正太郎をゴミを見るような視線を投げかけた
「へ?いや、だから」
「悪魔も我々天使も人間になぞ興味がありません、そのため生かされている。否、放置されているだけです」
「その言葉は、看過できませんね」
「母さん?」
「ミカエル?貴方達、天使はどうやってこの世界に顕現したのですか?悪魔はどうやってこの世界に現れて地獄を繋いだのですか?前提条件を忘れていませんか?全ては私達人間から始まっています、貴方たちも悪魔も目的を達するために人間を大切にしないと足元を掬われますよ?」
「母さん、そんなに怒らなくても」
「怒っていませんよ。ガブリエル、ビールを持ってきて」
「かしこまりました」
「あの、ガブリエルさん?」
「はい、なんでしょう」
「その服は?」
「無敵の戦闘服、メイド服です」
「なんでそんなの着てるの?」
「私が最強無敵の天使だからです」
テラフニエルとバルキアケルの方を見ると、何かを諦めるように遠い目をしている。
「色々突っ込むのは止めよう。疲れるだけだ」