未来は、まだ、分からない 17話
「月は同じ面をこの星に向けているんだ、その裏側に拠点を作る。デブリは腐るほどあるらしいし材料には困らないだろう、稼働中の人工衛星には手を出すなよ」
「正太郎様、では、早速4体の顕現を始めます」
テラフニエルは、地下へ降りて行った。
「母さん、姉さん、これから2人には2体ずつ天使をつけることになるから、ちゃんと名前考えてあげてね。流石に全部に名前を付けることは出来ないけど、身近にいる奴くらいにはね」
テラフニエルが5つの卵を浮かべながら、地上に上がってきたとき、頭を抱える二人の女性がいた。
「どうしたのですか?」
「姉さんたちは、天使の名前で悩んでいるんだよ」
「そうですか、名は大切なものです」
「尖兵に名前は不要なんじゃないのか?」
正太郎は、意地の悪い笑みを浮かべた。
「ええ、尖兵に名は必要ありません。しかし、名を与えられた天使は名にふさわしい力を振るうとされています」
「ほんとうか?」
「いえ、おとぎ話の類です、しかし、私は名を頂いて孵化しましたので尖兵には相応しくないのかもしれません」
正太郎の前には1つ、母さんと姉さんの前には二つの卵が置かれている。
「名を頂けるとのことでしたので卵の状態になっています」
正太郎は、卵を見つめて名を告げる
「バルキアケル」
テラフニエルのように、卵の殻を割るようではなく、卵そのものが変形するように形が変わる。
テラフニエルによく似た天使だ。
正太郎は、ちょっと不思議に思った。
「あれ?天使ってみんな同じような姿なの?」
「分かりやすく申し上げれば、弾丸は元来既製品です。後は、孵化させた人間の好みによるところが大きいかと」
明菜は、お腹を抱えて爆笑している。
「姉さんは、どうするのさ!」
「そんなの決まっているじゃない!名前と言えばこれ!ポチ!タマ!いでよ」
大げさな身振りと共に明菜は目の前の卵の名を呼んだ。
1つは、身長180センチを超える大きな体躯で鋭い目つきの大男、もう1つは140センチ程の小さな体躯に大きな目を輝かせている幼女に見える。
「どう?こんなもんよ!」
明菜は、ドヤ顔をしているが、明菜以外の全員が遠い目をしている。
「お、恐らく護衛としての力と索敵能力に優れた個体だと思います」
テラフニエルが慰めなのか分からない説明を始めた。
「じゃあ、最後は私の番ね」
真雪は、左右の掌をそれぞれの卵にかざし、まず右手にある卵を静かに呼んだ。
「おいでなさい、ミカエル」
「お母様!その名は!」
テラフニエルが慌てた。
卵は、光を放ちながら変身し150センチほどの少女の様に見える。
「大天使から熾天使になったように世界を悉く光で満たしてください」
真雪の言葉を受けて、天使は炎に包まれ、背中に2対4枚の翼をもち、右手に剣を握っている。
左手にある卵に真雪は、語り掛ける。
「おいでなさい、ガブリエル」
卵は、光を放つことなく160センチほどの少年の様に見える。
「この世に慈悲と復讐を」
言葉と共に、少年は無数の翼に包まれ、それが解かれると身長ほどもある鎌を担ぎ2対4枚の翼を揺らした。
「「なんか、俺(私)のと違う」」
子供二人が駄々をこねるように口を揃えた。
「テラフニエル説明」
正太郎は、テラフニエルに言葉を促したが当人は震えるばかりで身動きが出来ないようだった。
よく見ると、他の天使も威圧されたかのように身動き一つ取れてない。
これは、ちょっと良くないことが起きたのかと正太郎が冷汗をかいた時、いつもの声が聞こえた。
「ねえ、お母さん、これってどういう事?うちのポチもタマも動けないんだけど!」
「あらあら」
「ポチ!タマ!私はねワンコとニャンコが好きなの!わかる!?」
いや、全然分からないと正太郎は思った。
「我は、求められたのか」
「ウチは、求めに応じたの」
「ポチ、タマ。はい、説明よろしく!」
ポチとタマは視線を交わして、頷いた。
「では、我、ポチが右手をタマが左手を説明します。両方では言霊で私たちの霊体が壊れてしまうのでご容赦願いたい」
母さんは何をしでかしたのだろう?嫌な予感しかしない。
「右手たるミカエル様は、明けの明星とも言われたルシファー様、サタンとも呼ばれる方をその剣で討ち取り地獄へ封じ込めた存在です、その功績から最高位の天使とされています」
「次は、ウチからだね、ガブリエル様は神の左手とも呼ばれて、罪深い都市に死と破滅をもたらす最高位の天使です」
正太郎は、ええー、もう母さん達だけで世界救えるんじゃないかなと思った。
「姉さん、大切な話がある」
「なに、どうしたの?」
「現状新鮮な食材は、どのくらいある?ぶっちゃけ麻婆豆腐が食べたい。テーブルも手間だと思うけど外に出して欲しい」
「分かったわ、なにか考えがあるのね、ポチ、タマ、君たちは料理は出来るのかな?」
何も考えてない、ただの現実逃避だ。
明菜は悪戯っぽい笑顔を2体に向けた。
「我らは、明菜様から生まれました、明菜様が出来ることはすべてこなせます」
ポチが、分厚い胸板を叩いた。
「味見は、ウチにおまかせだよ!」
「ふふふ、頼もしい下僕だわ」
1時間後
「まだまだね、火の扱いも拙い、鉄鍋も力任せでちゃんと振るえない。包丁に至っては何?ぶつ切り以外できないの?」
「面目ない」
「たま!猫舌で味見とか無謀すぎる、天使なんでしょ改善しなさい」
「了解です」
テーブルを並べている、テラフニエル。皿とコップを配膳しているバルキアケルの瞳からは光が失われている。
「母さん」
「なあに?」
「その炎まみれと羽まみれのは、光って目立つから抑えてもらえないかな?」
「そういえば、貴方たち何にもしてないわね」
いや、天使ってそういうもんじゃないと思うんだ。と正太郎は正座させられている2体を援護することは出来なかった。
「ささ!ご飯食べよう!」
珍しく正太郎が料理の取り分けをしている。
ミカエルもガブリエルも、もう光ってはいないが服を着るのを嫌がった。妥協案として黒く光を反射しない鎧にした。
もちろん、それ以上揉めると母さんが修羅になると直感したからに過ぎない。
他の四体は、普通に戦闘服や明菜のお下がりを着ている。
「なんだろう?世界を救う方法を考えるより疲れた気がする」
「正太郎様、麻婆豆腐です」
「ありがとう、これ好きなんだよね」
「正太郎様、餡かけ炒飯も美味しいですよ」
俺の右側にテラフニエル、左側にバルキアケルが座って同時に料理を勧めてくれる。
それ自体は困らないんだけど、俺を挟んで睨みあうのはやめて欲しい。
「これは!すごい」
「明菜様は、神様なの!?」
ポチとタマは、完全に餌付けされている。
姉のドヤ顔がこれほどまでにウザいと思えるようになったのも、少しの平和なのだろうと餡かけ炒飯と麻婆豆腐を腹に詰める。
俺たち人間も天使同士も親交を深めて連絡を密にしないといけないと思っての食卓なのだが。