未来は、まだ、分からない 15話
「おー、やっぱり見事に残ってる」
地下には、以前に訪れたまま円柱が綺麗に並んでおり、卵が緑の溶液に浸かっている。
「しかし、このスペースはシェルター化しているから無事なのは理解できるとしても、維持エネルギーはどうやって賄っているんだ?」
「我々が顕現するためのエネルギーを転用していると推定されます」
「うわ!びっくりした!テラフニエルかって、とうもろこしは置いて来いよ」
テラフニエルは、両手にトウモロコシを持って正太郎の隣に立っていた。
「戦力増強も兼ねて、ここの天使を全て顕現させることは可能?」
「可能です、最初の一体は人体による孵化させる必要がありますが以降は封印状態さえ解除されれば顕現します」
「最初は孵化させる?」
「ええ、天使も悪魔も自由にこの物質界に顕現することは出来ません。悪魔ならば召喚、天使ならば孵化が一般的です」
「悪魔の召喚は、なんとなく分かるけど孵化ってなにさ」
「処女懐胎などの手法です。現状は緊急事態のため、卵の状態で物質界へ位相し人の霊力などにより顕現する形が取られました。人間の数が予想外に少なかったこと、孵化前に封印されてしまったのは誤算でした」
「結構な博打だな、天使ってバカなのか?」
「悪魔に先手を打たれた以上、取れる手段は限られていました」
「でも、これだけの天使を一気に顕現させれば、敵にもバレるだろうし何より維持できないよな」
「その懸念はもっともですが、小さな懸念と思われます」
「そうか?結構大きな問題だと思うけど」
「我々は、正確には生物ではありません。そのため身体の組成を組み換えが可能です、例えば古の箱舟や大陸の様な形と成ることが可能です」
「その天使の姿である必要がないと?」
「その通りです、我々は尖兵であり兵器であり拠点でもあるのです」
「うーん」
「何を悩んでいらっしゃるのですか?」
ここの天使を顕現すれば、ある程度の戦力が整うだろう。
その戦力があれば、基地一つ落とすことくらいは可能だろう。
しかし、この世界に幾つの基地があるのだろう?もはや、人類は誰が誰と戦っているか分からない状態だ。
戦闘行為を行っている基地や組織に悪魔が関与しているのならば、世界全てが敵に回る可能性が高い。
天使の戦闘力は不明だが、人間が現状3人だけっていうのは、不測の事態に対応できない可能性が捨てきれない。
天使は、自分を尖兵と名乗るほどだ、戦闘特化と考えていい。
悪魔と結託した人間が搦手を使ってきたら対応できないだろう。
対応できるのであれば、先手を取られて封印されることも無かっただろう。
何か引っかかる。
テラフニエルは、言った。
悪魔は、天使と神を殺す手段なのか兵器を開発している可能性があると。
ならば、悪魔は現状天使を殺す術を持たない、そして天使の目的は悪魔の殲滅もあると。
悪魔は天使を殺せず、天使は悪魔を殺せる。
だから、積極的には戦わず顕現する前に封印するに留めた。
こちらに都合が良すぎる。
「テラフニエル、この世界に存在している天使は、ここに居るだけで全部か?」
「いいえ、おおよそ此処には3千程の天使が封印されています。この数では駆逐艦と軽空母程度の大きさの拠点と運用しか不可能です。私の知る限り浮遊大陸並みの運用に足る天使が位相されているはずです」
「つまり、他にも天使が封印されていて、大陸一つ分の戦力があるはずだと」
「その通りです」
「ますます、困ったな」
「なぜです?」
「分からないか?お前たち天使の言うように世界を正常に戻すには、この広い世界に恐らく分散されている天使を探す必要があってその間、図体のでかくなる部隊を引き連れて探索と逃走をしなきゃならん」
「我々に維持費はかかりません。しかも、敵を一方的に殲滅することが可能です。不可能ではないと思われますが」
「戦いになった場合、天使は永遠に継戦することが可能なのか?食事も睡眠も必要ない。でも、最初にヘリを爆破したレーザーみたいなエネルギーを永遠に放出することが可能だとは思えない」
「それは、その通りです。一定の霊力を回復するために休息もしくは人間からの補給が必要です」
「人間を喰うのか?」
「いえ、人間が近くに存在していれば可能です。一定の信仰心があれば回復が早まります」
「浮遊大陸並みと言ったな、それ以上の天使の追加は見込めるのか?」
「見込めません」
「そらみろ、こちらの戦力は限られていて、敵は既に人間を取り込んでいて追加の可能性もある。悩みどころだろ?」
「確かに浅はかでした」
なによりと正太郎は思っている。
天使が必ずしも人間の味方だとは限らない。
「天使の戦力を最大限に引き出すためには、人間の存在が必要で人間を維持するためには拠点も食料も必要。ぶっちゃけ手詰まりくさいと思う」
テラフニエルは、いつもの無表情から少し落ち込んでるようにも見えた。
「とりあえず、晩飯にしてゆっくり考えよう」
「了解しました」
正太郎たちは、地上に戻った。
「あ、パラソルとか片付けたんだ」
「お姉ちゃん、ちょっとテンションおかしくなっちゃっただけだから!晩御飯は普通だよ」
明菜がパタパタと顔を仰ぎながら答えてくれた。
正太郎は、少し気持ちが上向いた気がした。
いつも明るく元気な顔を見せてくれる姉には、いつも救われているなと思ったところで、はたと気付いた。
「テラフニエル、姉さんの足、治せる?」
「あれは、機械化による性能向上ではなかったのですか?」
「姉を勝手にサイボーグにしないでくれ、それにそんな技術は現状ない、のか?」
「明菜さまの足を再生させればよろしいのですね?明菜様もそれでよろしいですか?」
「え?治るの?また、走れるようになるの?」
「慣れるまで時間が必要でしょうけれど可能です」
「じゃあ、お願いします」
明菜は、義足を外して椅子に座った
すると、膝から上が無かった足が仄かに光ると足が再生されていく。
まず、骨と神経が形成され筋肉と血管が走っていく。
最後に皮膚が全体を覆うと完全に再生された。
「結構、グロいな。姉さん具合はどう?」
明菜は、おっかなびっくり立ち上がってみる。
「私、足治ったよ。テラフニエルさん、ありがとう」
「私からもありがとう」
母と姉が涙声で手を組んで祈るようなポーズで感謝を述べた。
正太郎は、ほんのりとテラフニエルが輝いたのに気が付いた。
「これが信仰心ってやつか」
「ええ」
テラフニエルが僅かだが微笑んだ。
「今夜は、レーションだね」
正太郎は、外で走り回っている姉を眺めながら笑った。