未来は、まだ、分からない 11話
正太郎は、悩んでいた。
バギーのところまで来た。正太郎が数日かけて歩いた距離を10秒ほどで。
風圧も周囲へのソニックブームも無かった。
原理が分からない。
取りあえず、スライムから変身した天使みたいな人?には予備の服を着てもらった。
翼の部分をどうしようかと思ったが、実体があるのか無いのか、服を透過している。
消すこともできるらしい。
一瞬で、ヘリを全滅したところから作戦にあった秘密兵器は、自称天使で間違いないだろう。
生体兵器でしたと引き渡せば任務完了、口封じから逃げるだけ。
しかし、目の前で袖や裾を珍しそうに引っ張ているのを見ると何となく情が沸いてしまう。
たった一体しか確保できなかった生体兵器だ、どんな実験が待ってるか想像するだけでも気分が悪くなる。
正太郎は、溜息をつくと一旦考えを保留して食事にすることにした。
敵基地も存在していないため、火を使って温かいスープを作ることにした。
レーションを組み合わせたスープだが、味は悪くない。
温かいものを食べると人間は多少なりとも落ち着くことができる。
落ち着いて考えることにした。
正太郎は、鍋をかき混ぜながら取り留めのない話をすることにした。
「なあ、俺は正太郎って名前だ。あんたに名前はあるのか?」
ガスストーブの向こう側で天使は、首を傾げた。
「尖兵に名はありません。貴方はご自分の使う弾丸にいちいち名前をつけますか?」
「そうか、天使っていうのは、神様にとっての弾丸か」
「似たようなものです、上位の御使いは個別名称を賜り強大な力を有しておりますが天界から降りることがないので、この議論は無意味です」
「しかし、名無しってのはなー、なんか落ち着かないな」
「私の事は、お好きに呼んでください。その必要があるならばですが」
「そうなんだよなー」
「何を悩んでいらっしゃるのですか?」
「いや、俺の任務が秘密兵器の鹵獲なんだ。その秘密兵器はお前っぽいんだが」
「私を引き渡す事に何か問題があるのですか?」
「問題というか、俺の気持ち的になんか嫌なんだ」
「そうですか、私には少々理解不可能です。私、一翼のみでは顕現した目的を果たせないのでどうなろうとお気になさらずに行動してください」
天使は、無表情で淡々と語る。
「テラフニエル」
「え?」
「名無しじゃ、面倒だしな。どっかで天使の名前って聞いた。姉さんかな?」
「私の名前・・・」
「俺の事は、好きに呼んでくれ」
テラフニエルは、両手を組んで胸に抱くようにかみしめているようだった。
正太郎は、喜んでもらえたと思うことにした。
神からすれば、弾丸でも自分にとっては、と考えて何なんだろうと考えたが答えは出なかった。
「さて、飯にしよう。食べるだろ?」
「私たちは食事も睡眠も必要としません」
「食べられないのか?」
「いえ、摂取することは可能です」
「ややこしいな、ほら、熱いからゆっくり食べろよ」
小さめのコッヘルにスープをよそうとスプーンと一緒に手渡した。
一瞬、原始人のようにスプーンを使うことが出来ないかもと考えがよぎったが問題なく使えているようだ。
「おいしいです」
「なによりだ。今夜は早めに寝て早朝に出発だ。不寝番は現状いらないだろう、ところで、その羽は出っぱなしなのか?」
「いえ、そもそも霊体に近いものですから不可視にできます」
「目立つからなるべく見えないようにしておいてくれないか?」
「了解しました」
正太郎は、テラフニエルの羽が見えなくなるのを確認すると寝袋に潜り込んで寝ることにした。
テラフニエルに寝袋を貸そうかと提案したが、そもそも寝る必要もなく人間より頑丈であるため不要と言われてしまった。
正太郎は、寝袋の中でこれからの事を考えた。
このままテラフニエルを引き渡すのは愚策以外の何物でもない。
速攻で始末されて終わりだ。
「テラフニエル、分裂とかできないのか?」
「できません」
うーん、この戦略級のっぽい奴が二人いれば、自分の護衛と家族の護衛が出来て脱出も容易だろう。
自分一人では、あの地下施設から脱出は不可能だ。
まずは、姉に口座から全ての資産を引き上げてもらう、情報屋に当座の食料と改造したトレーラーハウスと重機を牽引できるようにしてもらう。
恐らく怪しまれるだろう。
その間に、俺が報告をすればある程度、目をごまかせるはずだ。
かなり、無茶な作戦だがどっちにしても死ぬ。
正太郎は、睡眠薬を服用して無理矢理に眠りについた。
夜明け前に出発した一行は、情報屋に来ていた。
「姉さんが、窓口で口座から金を全て引き出す。出口で受け取ったら、ソーラー発電とハイブリッドのトレーラーハウスと防御力重視で用意してくれ。あとは穴を掘るための重機を牽引できるだけのトレーラーだ」
「お前さんだけで運転できるのか?姉さんもある程度の運転はできる」
「ところで、お前の隣の別嬪さんは誰だ?」
「しばらく、俺と組むことになった。出何処とは聞くな」
「へいへい」
正太郎は、家路に着いた。