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解答編

以後はパズルの解答が含まれます。


もうパズルを解いたという方や、面倒くさいから解くのはいいや、という方のみ、続きをどうぞ。

 パズルの書かれた紙片を指差しながら、皆の前で王様は自らの推理を披露した。


「いいかな? まずこのクロスワードだが、この赤いマスが重要なのだ。そこでまずはクロスワードを埋める必要がある」


 そして王様はクロスワードを書き入れていく。


挿絵(By みてみん)


「そうすると、ここに入る文字は、左からマ、ン、カとなる。これを並び替えれば”カンマ”。これがヒントになる」


「いえ、王様。恐縮ですが、我々はそれが不安なのです」


 長いヒゲの老臣が進み出てきた。額に浮かぶ汗をしきりに拭きながら、どうにか王様の行動を止めようと必死のようだった。


「答えの中にカンマはございません。ですから恐らくは、”マ”のマスには”ナ”が入って、答えはCのカンナになるのではないですか?」


「ではそこに”クリスマスツリー”以外にどんな答えが入るというのだね?」


「それは分かりませんが、相手は魔女でございます。ひっかけ問題かもしれません」


「くだらんことを言うな。いいか、ここは”マ”なのだ。異論は許さん!」


 そこで老臣も諦めたのか、すごすごと引き下がっていった。


 面白い展開になってきたと、私は内心ウキウキしていた。わざわざ深い雪の中を出てきた甲斐があるというものだ。


「さて。次はこのカンマだが、問題文をよく見ると、カンマ(,)があるのが分かる。タテのカギの3と、ヨコのカギの4だ。そこでその前の文字を拾うと、”い”と”と”になる。したがって答えは、糸と関係のあるAのミシン――」


 やっぱり無能な王様か。仕方がない。私から助け舟を出すことにしよう。


「お待ち下さい、王様」


 思いっきり不機嫌そうな顔をした王様が、私を睨みつけてきた。


「文句があるのか?」


「いえ。王様は素晴らしい観察眼をお持ちでございます。とても私には思いつきませんでした。しかし魔女も間抜けですな。こうしてわざわざ”問題文”に、女王様を変身させたと書いてあるのですから。そうでなければ、変身させられたことも分かりませんから」


 わざとらしく強調してやったので、さすがの王様も気付いたようだった。


「うむ……だがな。今のは、そうだ、お前たちをからかってやったのだ。これはひっかけだ。よく見てみろ。上の文にもカンマがあるだろう? これを見落とすとは愚の骨頂。で、それを見ると、”ち”と”に”だ。”いとちに”だから、つまり……なんだ、その」


 やはり鈍感なのか、この王様は。だからこういうことになるのだ。


「王様。”1”のくつしたとか、”2”の七面鳥とか、こうしてみるとみんな冬にまつわる単語が並んでいるのですね」


「そうだな……あぁ、そうか。いいか、お前たち。これは”いちとに”、つまり1と2を見ろということだ。そして1と2のマスには”く”と”し”。だから答えはBの”くし”だ。どうだ、もはや文句はないだろう?」


「素晴らしいです、王様。さ、早く冬の女王様を元に戻して差し上げて下さい」


 テーブルに歩み寄った王様がくしに触ると、それは煙のように形が変わっていき、あっという間に冬の女王様になった。冬の女王様は王様と抱き合うと、涙を流して喜びの声を上げた。


「ありがとうございます、王様。お会いしとうございました」


「長い間、すまなかったな」


 いい雰囲気を邪魔するほど、私は性格がひねくれていない。家臣たちとともに、部屋を後にした。


 すると先程のヒゲの長い老臣が話しかけてきた。


「ありがとう。君のお陰で助かったよ。報酬は後で家に送ろう」


「いえいえ。大したことではありません。それよりもあなたは下手ですね」


「何のことかな?」


「あなたは王様の間違った答えを止めようとしていた。つまりあなたは”正解を知っていた”。しかし直接教えるわけにもいかない。なぜなら”お前は口を出すなと止められていた”から。違いますか?」


「ハッハッハッ、それは考え過ぎではないかな? 証拠は無いでしょう?」


「確かに、これは私の妄想ですよ。ついでにもう一つ、私の妄想を聞いて下さい。ある女性の話です。その女性は、夫が仕事ばかりで自分に構ってくれないことを嘆いていました。だから夫の気を引くために、魔女に変身させられたという芝居をした。実際は家臣である魔法使いに協力してもらってね。だが予想外にも、夫はなかなかパズルの正解に辿り着かない。しびれを切らした協力者は、パズルに詳しい人間を探した。そこで見つけたのが――」


「若者は想像力が豊かですなぁ。もうこの年になるとボケてしまって敵いません」


「わぁ、悪い顔だ」


「どの口でおっしゃる」


 かくしゃくとした老臣は、笑って去っていった。


 これで物語は終わり。一件落着ということで、私は自宅へ帰された。


 もちろん帰り道に春の野花が咲き乱れていたことは、言うまでもない。


 後日、家に大きな小包が届いた。例の報酬である。さぞ良い物だろうと期待していたのだが、開けてみてがっかりした。


 入っていたのは、ミシンとカンナ。


 いや、私も要らないって。

お読み頂きありがとうございます。


本作は、冬童話2017参加作品です。


企画ページでは「読者の予想を裏切る」と宣言しましたが、いかがだったでしょうか。


パズル系小説を書くのは初めてなので、割と不安です。


そうそう。クロスワードで検索したら12作品しかないみたいです。


もしかして作中で問題を出して解いていくスタイルは「なろう」では初めてなんですかね。


ストーリーは、NHKでやってた「ファイ・ブレイン」を少し意識していて、差別化するためにクロスワードを出題する人間の意図を大枠での謎解き要素として組み込みました。


この辺は米澤穂信を参考にしてます。


キャラクター造形については、謎解きする主人公をひねくれた性格にしてみました。


外的世界に対して斜に構えながら、内には善意を持っている感じです。


これにキャラの濃い助手を足したら、いい感じのパズル解き小説になりそうですね。


誰か書いといてください(笑)。


「博物惑星年代記」が終わったら私が手を付けてもいいんですが、完結まで少なくとも2年くらいかかりそうなので、その頃には気が変わっているかもしれません。


どうせまた新しい実験小説を思いつきますからね。


では。


2016/12/11 葦沢

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