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5話 暴力こそジャスティス

「それじゃあ、とりあえず松本王を倒しましょう」

「え、いきなりラスボス?」

 クロは必死に弁明を重ねることで、損ねてしまった利一の信用を回復すると、いきなり最終局面を宣言した。

 もっとこう、段階を踏んで、少しずつステップアップしていって、最後に闘うものでは。

「だって、私にとっては平のヤンキーも番長も大して変わらないし。安曇野王を倒した時も、他のヤンキーとの違いみたいなものは感じなかったわよ」

 像が蟻を踏み潰す際に違いを感じないのと同じようなものか。

「しょぼいヤンキーを一人ずつ倒して、こまめにあなたから血をいただいても良いのだけれどね。でも、いちいち面倒くさいでしょう。だから、松本王を倒してこの辺りを平和にしたら、定期的にあなたの血を提供してもらえる形でどうかしら」

「ん~~~~~、いいよ」

 なんだか、思った以上に良い条件な気がする。それだけのことをしてくれるならば、死なない程度に血を提供してあげるというものだ。

「やったわ。それで、利一君、松本王の居場所知らないかしら?」

「知らないよ! 松本王って言葉をさっき初めて聞いたばっかりだよ!」

「ええ~。もう、仕方ないわね。じゃあ、知っていそうな人に聞くことにしましょう」

「そんな知り合いいるの?」

「友人はいないって言ったでしょう?」

 言って、教会を出る。後ろを歩いていると、手近にヤンキーが三人歩いていた。

「ひっ」

 思わず声が出る。

 大変怖い。

 ところが、クロは全く怯えた様子もなく、平然と彼らのもとへ歩み寄り、

「おい」

 普段のお上品な言葉遣い、品行がかけらほどにも感じられない目つきでにらみ、ドスを利かせた声を出した。なるほど確かにこれはヤンキーだ。しかしこうまで二つの顔を使いこなせるものなのかと少し驚いた。

「ちょい面貸せや」

「あ? なんだテメェ。って、おいおいずいぶんいい女じゃねぇかどうだいい事しねぇかぶへぼっ!!」

 速すぎてよく見えなかったけれど、たぶん腹を殴った。崩れ落ちる男を見て、残りの二人が怒りをあらわにする。

「おいテメェよっちゃんに何してくれてぶぼふっ!!」「げぼっ!!」

 気持ち良いくらいの瞬殺。

「……暫定安曇野王、知名度ないの?」

「安曇野王を倒したの数日前だもの。インターネットの全く普及していないこんな山奥では、情報の伝達にはかなり時間がかかるわよ」

「安曇野市民より安曇野市ディスるよね君」

「それより利一君。この三人で誰が一番意志が弱いと思う?」

 気絶中の三人を川の字に並べ、尋ねてくる。

 ふむ。

「この鼻ピアスの人?」

「じゃあそれでいいや」

 言って、鼻ピアスをずるずると引っ張って歩く。

「え、この人どうするの」

「尋問。あ、もちろん手荒な真似はしないよ。ただ、誠心誠意質問するだけだから」

 嘘だぞ絶対アブナイ事をするぞこの人。

「ていうかそれなら最初からそうすればよかったじゃん」

「三人もいると、お互いけん制しあってあんまりしゃべってくれないのよ。その点、一人はいいわよ。聞いてないことまでペラペラ喋ってくれるもの」

 ふふふと悪どく笑いながら言う。下手なヤンキーよりこいつの方が悪人なのではないだろうか、と思ったが、口にはしないことにした。

 それから教会の裏へ引きずっていった。どこから取り出したのかビニールひもで鼻ピアスの両手を縛ってから、ぺちぺちと頬を叩いて目を覚まさせた。

「おはようございます。突然で申し訳ないですが、松本王がどこにいらっしゃるか、教えていただけますか?」

 クロは、とっても良い笑顔で尋ねる。

 目を覚ましたばかりの鼻ピアスには、ここがどこで、自分がどういう状況に置かれていて、目の前のこの二人は一体誰なのか、さっぱりわからない。

 だから、

「え、あの」

 この戸惑いの言葉は、至極当然のソレだった。

「え? あの?」

 しかし、クロは、それすら許さない。

 満面の笑顔のまま、鼻ピアスの顔の数センチ横。コンクリート壁を、目にも止まらぬ速度で殴った。

 ゴォォンッッッ。まるで鉄球が飛んできたかのような鈍い轟音。

 コンクリート壁にヒビが入り、ぱらぱらと破片が地面へ落ちる。

「ひぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいい!!!」

 鼻ピアスの顔面が恐怖に蒼白する。

「良く聞こえなかったのかしら。仕方ないから、もう一度だけ訊いてあげるわね。……松本王の居場所を、教えていただけるかしら?」

「は、はいぃぃいいい! 教えます! 全部教えます!!」

 涙目でがくがくと何度も首肯した。最初の強面っぷりが嘘のようだ。ヤンキー嫌いの利一ですら、少しだけ同情してしまった。

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