エピローグ らぶこめなのはいいと思います!
「夜は……死にたかったのかしら」
三戸家のリビング。木子がテレビを独占し、利一がほっとお茶を飲んでいると、クロが呟くように言った。
あれから三日が経った。
あの後、吸血鬼の警察に夜の後始末を任せると、三人はそのまま事情聴取に連行された。適当に知り得る情報を話していたら、太陽が昇る前に返された。人間の警察より適当なんだなぁと思っていたのだが、どうやらクロの父が圧力をかけてくれたらしい。人間の警察と変わらないな、と思った。
「どうかな」
利一は左手でお茶をすすった。
チェーンソーでぶった切った左腕だったが、『あなたの血をたくさん飲んだ後なら、きっと切断したってもとに戻すことができるわよ』というかつての彼女の言葉通りに、あっさりとくっついた。正直怖かった。
「松本王の話だけじゃ、根拠もなにもないし。胸に何も入れなかったのは、単純に動きやすさを追求しただけなのかも」
一つの可能性を提示した。
とはいえ、たぶんそれは間違いだろう。利一もわかっていた。
夜の拉致の実行犯は、島村をトップとする四名のヤンキーたちだったらしい。夜の指示で昼間三戸家に侵入し、寝ているクロを攫ったのだという。もちろん激しい抵抗にあったが、あらかじめカーテンをすべて破り捨てていたことと、夜から借り受けたレーザーで弱らせ、車で運んだのだという。
松本城にてそういった事情を聞いていると、島村は妙な言葉を口にした。
『そうして連れて行った時だったが、やはり県王様は少し変だったな。てっきり満足げな顔をなされると思っていたのだが、一瞬泣き出しそうな表情をしておったように見えたのだ』
それを聞いて、利一は、ずっと胸の中にもやもやとたまっていたものが氷解してゆくのを感じた。
最初の襲撃から、クロを攫った時までの、一週間のタイムラグ。
あまり体調が優れなさそうだった、という証言。
そもそも利一と木子をわざわざ呼び出し、一撃入れるチャンスを与えていた違和感。
夜は、この一週間、衝動と、理性と、闘っていたのかもしれない。
殺してくれ、と、そう願っていたのかもしれない。
そんな風に、思った。
「それより、クロ。これからどうする? 実家帰る?」
「ん~、どうしようかしら」
「帰った方がいいんじゃない? お父さん寂しがるでしょ」
と、至極もっともなアドバイスをすると、
「そうですその通りですもう木子たちは狙われる心配もないです! お邪魔虫さんはさっさと国に帰れです!」
振り返った木子が思いっきり便乗してきた。
「誰がお邪魔虫さんよ! あの後私は一言もしゃべらなかったでしょう! まだ降格されてないはずよ!」
「お邪魔虫さんはお邪魔虫さんです! わかったらルンバ大先生に頭こすりつけて土下座して毎日掃除に励んでください!」
「分かったわ! それじゃあ今から掃除として木子ちゃんを粗大ごみに出すわね!」
「な! 何をするですか! やめっ、やめてー!! ごめんなさい言い過ぎました木子がルンバです許してくださいにーさん助けてーーーーーーーー!!!」
クロが木子を俵担ぎして、そのまま廊下の方へ行ってしまった。きっと最寄りのゴミ捨て場まで運んでいくつもりなのだろう。ぎゃあぎゃあという声と混じって、玄関の扉を開ける音がした。
仕方ない。利一は嘆息して、玄関へ向かった。みんなでコンビニでも寄って、美味しいものを買って帰ろう、と、財布を尻ポケットに入れた。
以上で本作は終了になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。




