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10話 とぶ

 その日の夜。20時。いつも通りテレビのチャンネル争いをする二人を尻目にのんびりしていると、

 バサッバサッ。

 窓の外から、大きな羽音が聞こえてきた。

 利一は窓を開け、外を見やる。

 すると、いつの間にか隣に来ていたクロが、呟いた。

「あら、モノじゃない」

 カラスが、欄干の上に留まっていた。

 クロが反応するものだから、コウモリを期待してしまっただけに、少しガッカリだった。

「モノ?」

「カァア」

 利一の問いに答えるように、カラスが鳴いた。

「この子の名前よ。モノ。私の使い魔なの。それにしても、どうしてここがわかったのかしら……」

 ともあれ、カラスはクロの前へ降り立つと、クチバシに咥えた手紙を差し出した。

「ありがとう」

 頭をひと撫でして礼を言う。

 バサッバサッ。カラスが飛び去って行くのを見送ると、クロは手紙を見やり、顔を青くした。

「クロ、どうしたの?」

「…………父が、一度帰ってこいって」



 ごつい銃の手入れをしながらテレビを見る木子の横で、クロと利一は向かい合った。

「あな、嫌だわ」

 クロはため息をついて、憂鬱そうに呟く。

「なんで古文みたいな言い方」

「古文みたいな言い方になってしまうくらい、嫌なのよ……」

 全くピンとこないが、嫌なのは本心なのだろう。クロの表情はいつになく暗い。

「親と仲悪いの?」

「母とはそこそこうまくやっているのだけれどね。父はが、私のことを嫌っているのよ」

 自嘲するような笑みを浮かべ、

「牙と、翼がないから」

 クロは言った。

 牙と、翼。

 そういえば以前、「吸血鬼の身体的な特徴は二つある」と言っていたなと思い出した。そのうち牙は聞いていたが、翼は聞いていなかった。

 しかし。いまいち釈然としない。

 吸血鬼にとってそれらは、そんなに重要なものなのか。

「牙とか翼とか、生やしたりはできないの?」

「それができるならとっくにやっているわ。あなただって、イケメンに……せめてフツメンにでもなれる手段があったら迷わず試すでしょう?」

「クロ。嘘には、ついて良い嘘と悪い嘘があるんだよ」

「大丈夫よ。本当に本気で顔面交通事故な人には、冗談でもこういう事は言えないから。あなたはギリギリアウトよ」

「アウトなのかよ!」

 ちょっと泣きそう。

 さておき。牙や翼が生えてこない、という事実は、吸血鬼にとって極めて重要な問題らしい。

 ただそれだけの理由で、肉親から嫌われるほどに。

「ああ……なんとか、なんとかして回避できないかしら……。でも、そうね。そろそろ、お母様の誕生日だものね」

 マグカップを両手で握りしめて独り言をつぶやき続ける。

「風邪ひいたとか適当なこと言ってこっちに残れば良いじゃん」

「まぁ、そうなのだけれど、でも毎年、誰かが誕生日の時は家族みんなでお祝いしてきたのよ。ささやかだけれど。だから、今更大した理由もなくそれを反故にするのは、少し、ね」

 苦笑いを浮かべ、言う。それから、

「ああ~~~~~~~~~~でもやっぱり帰りたくないわ~~~~~~~~~~~~~~」

 突っ伏して、ほっぺたをぐりぐりとテーブルに押し付けた。

 父親から嫌われている、というのは立派な理由だと思うのだが、クロにとってはそうでないらしい。

 利一は、クロを眺めながら記憶を探った。


 彼女は、「父に嫌われている」とは言ったが、「父を嫌っている」とは言わなかった。


 だからだろうか。

「一人で帰るのが気まずいなら、僕も一緒に行こうか?」

 つい、手を貸したくなってしまったのは。

「え? なんで?」

「だって、一人で父親と顔を合わせるより、二人のほうが気まずくないじゃん」

 きょとんとするクロに、利一は笑ってみせた。

「いやいやいや。それは別の意味で駄目でしょう。それに、仮に私の気まずさが減ったとして、その分利一が気まずいじゃない」

「んー、ならその分、美味しいもの食べさせてよ」

「あなた、普段から良いもの食べているじゃない」

「吸血鬼の食事ってのも気になるんだよ。僕はグルメだからね」

「初めて聞いたわよ。その設定。木子ちゃんの手料理を毎日食べていればそうなるのもおかしくはないけれど」

「呼んだですか?」

 木子が振り返る。

「今度クロの実家に行こうと思うんだけど、木子も来る?」

「何しに行くんですかご両親に挨拶して外堀を埋めようという事ですか木子の目が黒いうちは許しませんよこのアバズレルンバ!」

「違うわよ! ていうかアバズレルンバって何よ!」

 再加熱しかける二人の間に割って入り、冷静に話を続けた。

「単に、クロの実家に遊びに行こうっていうだけの話だよ。吸血鬼料理も食べさせてくれるみたい。食べてみたくない?」

「ふぅむ、そういうことですか。そうですね……ルンバさんはいつも木子の料理に文句ばかりですから、ここらで一度ルンバさんの慣れ親しんだ料理というものを食べておきたいですね」

「文句ではなくて、単に味の好みが合わないと言っているだけじゃない! ま、いいわ。母へ電話するから、貸していただけるかしら」

 子機を手に、廊下の方へ行く。

 数分後。

「大丈夫みたい。むしろ歓迎していたわ」

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