【白き少女と黒き少年】 [零編]
……ここは、いったい……
自分自身でも分かるくらい、意識が朦朧としている。
身体が熱くて、熱でもあるみたいだ。
「――どこだ、ここ?」
意識が少し回復する中、周囲の様子を確認する。
灰色の壁、空気を入れ替えるだけの小さな窓、そして目の前には……。
「……あ、目が覚めたんだ。お兄さん」
見張るように扉の前で、本を静かに捲る少女の姿があった。
意識の方はほぼ回復し、自然と今の状況が理解出来た。
恐らく僕は、拉致されたのだろう。
身体が動かないし、手足も硬そうな壁に繋げられている。
「……あまり動かない方が、いいと思う。お兄さんの竜紋、まだ寝惚けてるから」
「竜紋が、寝惚けてる?」
「自分の状況よりも、竜紋を気にするんだね。変なお兄さん」
「縛られてるし、君が監視してるから、考えても仕方が無い」
本を読んでいる少女は、読んでいた本を閉じて立ち上がる。
そのままゆっくりと、彼の元へ近付いた。
「……お兄さんって、竜紋がどの龍のモノなのか。知りたい?」
「そりゃ知りたいよ。いつまでも、皆の足を引っ張る訳にはいかない」
「お兄さんにとって、龍って何?」
「いきなりの質問責めだね」
「……タツヤがそうしろって言ったから。レオは反対みたいだったけど。でも私には正直どうでもいい話題だから、お兄さんの事を知る為にタツヤの意見を今日は参考にする事に決めた」
「……タツヤ?レオ?それが君にこんな指示を出した人?」
「そうだけど……レオはともかくタツヤの方は、お兄さんの方が知ってるはずだよ?だってタツヤは、お兄さんの……ふぅ」
少し話していた少女は、溜息を吐いてトコトコと眠そうに歩く。
「……喋るの、疲れた。おやすみなさい」
「待って。とりあえず待って。君は今、どこで寝ようとしてるのかな?」
「え?お兄さんの膝の上だけど?……ダメだった?」
「監視対象の膝の上で寝ちゃダメでしょ。もし僕が、君に襲いかかったらどうするのさ?」
「お兄さんは別にそんな事しそうなタイプじゃない気がするし、それにお兄さんじゃ私に何しようとしても無駄だと思うし平気だよ」
「(……今さらっと、私には勝てないよ宣言されたような……)」
「それにタツヤの膝の上より、お兄さんの膝の上の方が寝心地良さそうだから」
「じゃあおやすみなさい」と言いながら、少女は僕の膝の上で寝息を早くもたて始める。
本当に寝ちゃったのか……。
寝息をたてる少女の寝顔は、どこか人形のように可愛らしかった――。
『ふーん、こいつが零?なんか弱そうだね』
『お兄さん、いい人だよ?膝、貸してくれたし』
『お前それ、見られたら怒られるよ』
話声がして、目が覚めた。
どうやら僕も、寝てしまっていたらしい。
拉致されてるのにもかかわらず、我ながらマイペース過ぎただろうか?
『とりあえず、中に入るぞ。ボクが話し進めるから、シズクはまだ寝てろ、身体壊すぞ』
『分かった、じゃあ後はよろしく』
そんな会話の後、目の前の扉がすぐに開いた。
そこには、さっきの少女と同じ体格の少年が立っていた。
「アンタが、霧原零?」
「……そうだけど」
「ふーん、やっぱり弱そうだな。じゃあアンタに二つぐらい質問があるから、それに答えてもらう」
「(病院の診察みたいな進行だな、この子)……あだっ!何で殴るのさ、いきなり!」
「何か今、ボクに対して失礼な事を思われた気がしたから」
「それにしたってグーは酷くない!?せめてパーにしてよ!ただでさえ、まだ頭痛してるんだからさ!」
「あ、それ質問内容に入ってる。じゃあ次の質問に……」
少年は何かを考えるように、腕組をし始める。
そのままの体勢で、僕の周囲を観察し始めた。
「……えっと、なに?」
観察しながら、少年は口を開いた。
「……次の質問。霧原家って、どんな家だった?」
「なに、その質問?僕の家の事って……っ!?」
家の事を思い出そうとした途端、眩暈と吐き気が襲いかかってきた。
その様子を待っていたのか、満足したような笑みを浮かべて少年は呟く。
「ちょっともう一つだけ、思いついた事を質問させてもらうよ」
少年は僕の耳元に口を近づけて、こう囁いた。
「――お前は、霧原竜也を知っているか?」
「――っ!!?」
その質問を受けた途端、意識が闇の中に放り込まれた――。
・・・・・
『あーあ、お前の好奇心は相変わらずだな』
「あ!タツヤ、おかえり。どうだった?そっちは」
少年の前に現れた男は、ニヤリと不適に笑った。
「亜理紗も桐華も、元気そうだったぜ。俺がいない間、随分と楽しんだみたいだ」
「正確には、『お兄さんのフリをした』でしょ?タツヤ」
「おお、シズクか。また寝ていたのか?『フリ』ではなく、『入れ替わった』だ」
「うん、レオにそう言われたから……ふぁ」
「んじゃまぁ、全員揃った所で……そろそろ行くぞ」
「分かった」
男は少年少女を率いて、零を置いてその場を出て行く。
出て行く最中、彼は零を見て呟いた。
「――じゃあな、哀れな弟よ」
扉が閉まり、零だけがその場に取り残された――。