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【平和な時間Ⅱ】

 黒くんだ空の色、それは灰色だ。

 曇りながら、太陽たいようというひかりやみで隠していく。

 まるで嵐の前触まえぶれのように。

 俺はもう、あのころには……


 「……ーい、おーい、起きて零君。朝ですよー」

 

 バリボリとお菓子を食べながら、零の目の前に桐華きりかがいる。

 顔の上で食べている所為せいで、零の顔にお菓子のカスが降り掛かる。


 「――えっと、桐華さん?」

 「うん、何?」

 「……なに、してるのかな?」

 「んー……夜這い?」

 「もう朝だよ!時計を見て、朝の6時!何で、こんな朝早くにお菓子の雨に降られなくちゃいけないわけ!?」

 「今日の天気予報、曇りのち雨だよ?」

 「じゃあ、僕の心の中はもう土砂降どしゃぶりだよ!」


 お菓子のカスをゴミ箱に捨て、零はベッドから起き上がる。

 そのまま離れて、テレビを見ている桐華を見る。

 

 「えっと、次は何してるのさ?」

 「煎餅せんべい食べながら、朝のニュースを見てるけど」

 「日曜日のおじいちゃんかよ」

 「ウチ、おじいちゃんいないよ?」

 「別に聞いてないよ、そんな事……桐華、なんか食べる?」

 「いつもので♪」

 「……はいはい」


 桐華が零の部屋に来る事は、別にめずらしくはない。

 ドラグニカ育成機関は、殆どの者はその寮で居座いすっている。

 零には親がいないので、親代わりでもある西條恭太郎さいじょうきょうたろうという教師兼保護者きょうしけんほごしゃとなっている。

 なので彼がいる機関の中であれば、生活しやすいというのが理由だ。

 何があっても大丈夫、という保険ではあるだろう。


 「桐華、ドラグニカって何だろうな?」

 「どうしたの?突然だね」

 「……いや、ちょっと気になって」

 「昨日の西條さんの説教が、少し効いてる?」

 「あの人は説教といっても、ただ面倒見の良いだけの人だよ。たまに怖い時もあるけど……」

 「あーちゃんとどっちが怖い?」

 「それは断然、亜理紗ありさだな」

 「そうなんだ。……だって、あーちゃん」

 

 そう言い、桐華は零の背後へと話掛ける。

 それによって、零は恐る恐る自分の背後を見た。


 「……ふ、振り向いたら、奴がいた」


 零は感じた、自分というこの世の終わりを。


 「……零?貴方に選択肢をあげるわ」

 「はい」

 「いち、山に埋められるか。に、海に沈められるか。さん、火であぶられるか。この中で最も貴方が、「されたくない」ものを選びなさい」

 「(……僕、逃げ場ないじゃん……)」

 「答えられないなら、私が独断どくだん偏見へんけんで決めるわ」

 「確実に全部にするよね、それ!!」

 「当たり前じゃない」

 「――全力で肯定された!?」

 「(鬼畜だ、鬼畜なおねえさんだ。せめて金髪のぱないが口癖くちぐせな吸血鬼系のおねえさんの方が百倍マシだ!)」

 「貴方それ、他作品たさくひんだからパクリになるわよ?」

 「僕の心の中を読むな!」

 「……♪やっぱり夫婦漫才めおとまんざいは、見て飽きないね♪」

 「そうしてるうち、もう時間だから!ほら亜理紗、時計見て!」

 「あ、ホントだ」


 壁に掛かっている時計を見て、亜理紗は呟き準備する。

 それにつられるように零達も、準備を始める。

 そのまま三人全員が、一斉に部屋から走り出る。

 ちなみに桐華の本日の朝食は、零特製のカップラーメンだった――。



 ドラグニカ育成機関のカリキュラムは、至って普通の学校と変らない。

 一般授業の教科と体育、そこまでは極一般的ごくいっぱんてきな学校だ。

 唯一ゆいいつ変っているのは、その体育が竜紋などを使用する実技訓練じつぎくんれんという事だ。

 体育だけが、他の学校とは少し違うものとなっている。

 設備内にある特別空間、「アリーナ」は異空間となっている。

 竜紋を使用できる彼らにとって、普通の環境ではこのような実技訓練は出来ないからである。

 異空間になってるのは、それが理由。

 怪我をしても、その空間を出れば全治する。

 それ程の設備をしなければ、彼らドラグニカの力は試せない。

 

 「西條さん、今日は何の訓練ですか?」

 「今日は特別訓練だ」

 「特別訓練?」

 「零、亜理紗、桐華の三人には、俺の相手をしてもらう」

 「三対一、ですか?」

 「ああ、そうだ。他の皆は、それぞれのチームに別れて組み手をしてくれ!」

 

 西條の声を聞き、彼ら以外のメンバーは次々と組み手を始める。

 零、亜理紗、桐華の三人。そして教師である西條。

 その彼らだけが、まだ距離を作ったままだった。


 「……どうする?このまま授業が終わるのを待つのか?俺はいつでも構わないぞ?」


 そう言いながら、西條は背中の双剣を取り出す。


 「――竜紋よ、弾け!トリシューラ!」

 「――竜紋よ、貫け!リヴァイアサン!」


 亜理紗と桐華が、戦闘態勢に入る。

 亜理紗は紅い槍、桐華がみどりと蒼い銃を取り出す。


 竜紋の力によって、武器を生成する事が出来るのがドラグニカの特徴である。

 亜理紗と桐華は、自分に合った武器はこれだと断定して生成している。

 ドラグニカにとって、その武器が自分の一番の特徴といっても良いだろう。


 「――よし、俺も!」

 「零君はダメ」「零はダメ」


 同時に彼女達は、零の行動をさえぎる。

 ちなみに言うと、零の体に銃と槍が向けられている。

 瞬時に手を上げ、零はうなれる。


 「……はい……」

 「零、お前は剣技だけで俺に挑んでみろ!」

 「僕がですか?……分かりました」


 スッ、と零は剣を力強く握る。

 そのまま走り、上から下まで勢い良く振り下ろす。


 ――数時間後。

 

 「「「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」」」


 零、亜理紗、桐華は、体力の限界を迎えた。

 結果は呆気なく、西條の無傷で訓練を終えた。


 昼休憩になり、零達は配給ルームへと足を踏み入れていた。

 

 「西條さん、相変わらず強かったな」

 「私の攻撃も、かすりもしなかったわ」

 「ウチはカレーがいい」

 「西條さんの双剣って、どんなドラグニカなんだろうな?」

 「さぁ、本人に聞いてみたら?」

 「あ、うどんもいいなぁ」

 「そうだな。じゃあ、今度会った時に聞いてみるよ」

 「私も気になるから、その時は教えてね?」

 「よし、カレーうどんにしよう!」

 「「……」」

 「……ん?どうしたの?二人共」

 「桐華、貴方話聞いてた?」

 「話?なんの?」

 「亜理紗、もういいと思うよ。桐華は、食べ物の方が大事みたいだから」


 そう言って、彼らは席につく。

 三人で並び、一斉に手を合わせる。


 「「いただきまーす!」」

 「ごちそうさま」


 零と亜理紗は、口を拭く桐華を眺める。


 「毎回思うけど、さっき大盛りだったよね?」

 「うん」

 「いつ食べたの?」

 「二人が席を探して歩いてる間、かな?」

 「疑問を疑問で返さないでくれない?」

 「桐華、よく貴方それ食べて太らないわよね。羨ましい……」

 「あぁ、亜理紗はそこなんだ。桐華はどうする?おかわり持ってくる?」

 「大丈夫、お菓子持って来たから……(もぐもぐ)」


 スナック菓子を食べる桐華、それを見る零と亜理紗。

 三人の食べてる物。

 零はからあげ定食、亜理紗は親子丼、桐華は大量のお菓子(本人曰くデザート)。

 はたから見れば、桐華が貧乏みたいな絵図えずらだった。

 実にマイペースな集団だ。

 だけど誰も文句は言わず、ただ今まで通りにしている。

 三人にとって、これが普通なのだ。

 文字通り、幸せな時間である――。


 ・・・・・


 設備内、教員室。

 時刻は午後10時。

 その時間に一人、彼だけがPCと睨めっこをしていた。


 「零の竜紋……お前らじゃ、分からないか?」


 影が纏わりつき、紫の光が4つ現れる。

 

 『私には分かりかねるな。まだ半人前とはいえ、かなりの竜紋だ』

 「……そうか。零は制御出来ると思うか?」

 『それは彼次第だ。ただし、君が彼の教育担当だろう?』

 「ごもっともだ。どうにかしてやるさ、あまり時間が無いからな」

 『では私は眠るぞ?』

 「あぁ、悪いな。ゆっくり寝てくれ」


 そう告げた瞬間、彼の影は元の自分の影に戻る。

 そして彼は、机にある写真立てに手を伸ばす。

 

 「さかき……俺はあいつにどう教えればいい?お前の忘れ形見に……」


 写真立てを置き、彼は背もたれに背中を目一杯預ける。

 そして天井を仰ぎ、そのまま窓の向こうにある曇り空を見つめた――。

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