【和解】
――剣と剣がぶつかり合い、その音が響き合う。
火花が散らせ、彼らは斬り合う。鏡を見て、まるで自分と戦うように……。
「オレは昔から疑問だった!何で霧原零の中に「オレ」という人格を創ってまで、記憶を封印したのかを」
「俺から話す事は何も無い!知ってたとしても、俺から聞きたいのなら力づくで吐かせてみろ!」
互いに剣を振りながら、彼らは口を開く。
今という時間が、彼らにとって貴重だからだ。
「オレなりに考えてさ。はぁ……竜也、お前の記憶と零の中にある記憶。実は違うモノなんじゃないか?」
「――っ!?……どうして、そう思う?」
「純粋な好奇心だ。零の中にある記憶は、竜也が黒い龍になったという記憶しかない。でもそれなら、そもそも「オレ」という存在はそれだけなら必要ないはずだ」
「その記憶はお前のモノだ。誰からも見れたり、触れたりする事は出来ない。相手の記憶を読み取る事が、出来なければ――」
「――そう、それ!」
ピッと指を伸ばし、零は口角を上げて言った。
「誰かがオレを創るため、わざわざ気を失ってるオレの記憶を視た。それが出来た奴がいるはずだ。竜也、正直に言えよ。霧原家の中で、そんな力を持つ奴は一人しかいないだろう?」
微かに記憶を巡り、零は笑って話す。
だがその表情と目は、どこか悲しさが混じっているようだった。
その様子を見て、竜也は驚いた。
「――答えろ竜也っ!!知ってるはずだ!「僕」の記憶にも、微かに残ってる……あの人の記憶がっ!」
「…………零、お前」
零の片目からは、微かに光るモノを見た。それは涙だ。
涙を流している片目は、赤から黒へと戻っていた。
黒と赤。その二つの眼になっているという事は、ただ一つ。
零と零の中に創られた人格が今、一つの身体になっているという証拠だ。
「……あの人は、今はもう……」
「それは知ってるっ!でも、だけど……」
剣を下ろし、零は片目を抑える。涙が出る黒い眼を隠すように……。
「あの人は、僕たちを争わせる為に龍の力を持たせたのっ!?ドラグニカは、僕たちは何のために生まれたのさっ!竜也っっ!!!!」
「――そんなの、知るかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
大きく剣を振った零を竜也は、勢い良く力で振り払った。
零の剣は飛ばされ、龍の粉塵のように消失した。
そのまま竜也は、剣先を零へ向けて言った。
「……忘れろ、零。お前はあの人……母さんを知る必要は無い」
「――くっ、何で……たつ、や?……」
「亜理紗の龍は俺が止めといてやる。そのままお前は眠っていろ。そして起きた時、お前は今日の事を」
「…………」
零は瞼を閉じ、静かに夢の世界へ入る。
いや、竜也が入らせたのだ。彼の手は、そのまま零の頭を撫で続けていた。
「――これが本当のお別れだ、零。今日の事、そして過去の事、全て忘れろ」
撫でていた手を止め、竜也は竜紋の力を発動させようとする。
だが、そんな事は出来なかった。
「――クソっ!!!何で、お前が邪魔をする!?」
ドクン、ドクン、と鼓動が早くなる。
竜也は胸を抑え、何かを抑えようとする。
影が浮き上がり、竜也の足元から空へと集まっていく。
まるで逆流する、滝のように……。
「竜也、もう少し……オレを頼ってもらっても良いんだぜ?」
「お前、どうして?」
「バカか竜也?オレはもう一つの人格で、創られた存在なんだ。気絶させても、オレ自身は気絶なんかしねぇよ」
「はぁ……はぁ、あ、そ」
苦しくても、竜也は微かに笑って言った。
隣に零は座り、零は竜也の腕を掴む。
「……で、どうすればいい?悪いが手を取ったは見たものの、何をすれば良いか全然分からない」
「お前はホント、無茶苦茶な奴だな。零の違う人格として、最適すぎだよ」
「それ、褒めてるのか?まぁ良いや。とりあえず、すぐそこまでリヴァイアサンが来てる。一旦場所を変えるぞ、いいな?」
「兄貴に命令か?良い度胸だな」
「そんな状態で減らない口だな?いっそ喉元掻っ切るぞ?」
「それは勘弁だな」
「じゃあ今日はもう、言う事聞けよ。……バカ兄貴」
その言葉が聞こえたかどうかは、零は知らない。
だが竜也も零も、昔のように微かに笑顔になっていた。
ただこの時、零は知らなかった。
竜也の状態が、非常に悪い事に。
そしてそれが、零にとっての種という事にも……。




