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【決断】

――私は知っている。この世界のことわりを。

どうしようもなく、人々は愚かな選択しか出来ない事も。

……私は知っている。世界が理不尽な事も、不平等な事も知ってるはずなのに。


「……どうして、貴方はそんな事出来るの?」


身をていして、彼女を救うという行動を何故なぜ出来るの?

何故、躊躇ためらわないの?何故貴方は、どうして……


「――私の事を忘れたの?」


少女は彼らを眺めて、そう言った。

その声と共に、一滴ひとしずくなみだを流しながら……


========================================


零は身体を貫通した槍をそのままにして、亜理紗を抱き締めた。

優しく、ただ相手を包み込むように……


「……亜理紗。僕の声も、届いてるかな?」

「……あ……あ……」


涙をこぼして、彼女はその声に反応する。

反応を確認した零は、言葉を続ける。


「遅くなって、ごめんね。たくさん怖い眼に遭ったし、自分が望んでない行動をしちゃったって後悔してるんでしょ?亜理紗は優しいから、自分の事を放って、他人ひとを気にするから」


グッ、と彼女は零の服を掴む。


「私は、桐華が傷つけられたと思って……そう思ったら、頭の中が真っ白になって……それで」

「うん、分かってる。桐華も分かってるから、もう良いんだ。十分亜理紗は頑張った。だからもう……」

「……れ、い……」

「だからもう、おやすみ。亜理紗」


亜理紗はその言葉を聞き、その通り眠りについた。

零はそのまま亜理紗を抱え、桐華の元へと歩く。

桐華も彼の元へ向かう。


「あーちゃん、どうなったの?」

「能力の使い過ぎで、気を失ってるだけ。桐華には、亜理紗をお願いしていいかな?」

「零君は、どうするの?」

「それは……」


零は剣を構え、竜也へと身体を向ける。

口角を上げて、彼は口を開いた。


「久しぶりの兄弟喧嘩、かな」


彼はそう言って、桐華と亜理紗に手をかざした。

その瞬間、その場から彼女達の姿は消えた。


「……へぇ、零がそれを使えるという事は」

「うん。僕が、忘れ去ろうとしていた記憶。それを受け入れたから、使えるようになった力だよ」

「お前のその力なら、世界を変える事も出来る。久し振りに問うぞ、零」

「何かな、兄さん」


竜也は手を零へ伸ばし、彼に言葉を投げた。


「――俺と来い。お前は、そっち側の人間じゃない」

「悪いけど、竜也。それは無理かな。今の僕は、限りなく人間だ。弱くて、もろくて、一人じゃ何も出来ない人間だよ。だから竜也とは、一緒に行けない。……」

「……そうか」


伸ばしていた手を下ろし、竜也は剣を構える。それと共に零も剣を構える。

向かい合う兄弟の視線は、龍の眼のようにするどい眼光だった――


========================================


彼の力なのか、それによって彼女達は離れた場所へと出現する。

そこは街の外れ。廃墟はいきょとも言われそうなその場所は、何かの教会のようだった。


「……ここは?……」

『ここは、日本の中で限りなく平和に近い場所ですよ」


――カチャっ!!


警戒態勢に入る桐華は、目の前の人物を見て銃を下ろしてしまった。

その人物を彼女は知っている。過去の記憶から、引き出した人物と完全に一致した。


「あ、アナタは」

『お久し振りでございます。相変わらずの銃捌さばきで、腕はまだにぶっていないようですね。ですが……』

「……国連軍のアナタが、ここへ何しに来たのですか?」


再び銃を向け、その人物に問い掛ける。

だが彼女は手が震え、思うように狙いを定められないでいた。


『この老人でさえ、貴方は撃てなくなりましたか?』

「平和であるのは一瞬だから、望んでしまえば儚く散っていく。それがこの世界の現実。昔、そう言いましたよね」

『ええ。私達は軍人です。それは今も昔も変りはしませんよ。さて、少々遠出をし過ぎたようですね。私はこれで去る事に致しましょう』


帽子を深く被り、目元が見えなくても彼女は感じ取った。

まだ勝てない。今も、昔もまだ、追い抜けない。そう感じ取った。

そして少し離れた彼が、思い出したようにこちらへと振り返り言った。


『――ああ、そうそう。言い忘れましたが、貴方がご執心の彼。我々が捕獲させて頂きますので、くれぐれも邪魔をしないようにお願い致しますよ?』

「――それってどういう!?」


スッと彼は姿を消し、教会には桐華と亜理紗が取り残された。

亜理紗を椅子に寝かせ、桐華は目を瞑って口を開いた。


「……トリシューラ、トリシューラ。聞こえる?」


呼吸を落ち着かせ、集中力を高めて彼女は問い掛ける。


「トリシューラってば、聞こえてるんでしょ?お菓子、あるよ?トリちゃん?」

『変な名で私を呼ぶな、キリカよ』

「あ、出てきた」

『あまりにもしつこいのでな、来てやった。用とは何だ?』


少し間をあけて、桐華は口を開く。

その表情はどこか、覚悟を決めた表情となっていた。


「――トリちゃん、ウチを強くしてくれない?」



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