【黒の騎士】
――平和はそう長くは続かない。
そんなのは、分かりきった事のはずだ。
なのに私は、ただ一つの希望と記憶を信じて待つ。
彼がどこまで、正義というものを貫けるのかを。
少女は灰色の空を見て、ただ一人口角を上げて言った。
「覚醒は時として、世界を混乱へと誘う事もある。なら、私達はドコで生きようか?」
少女は振り向き、何かに言葉を投げる。
口角を上げ、小さく笑って彼女は姿を消した――
……藤堂亜理紗は暴走状態、藍原桐華に霧原竜也。そしてあの講師も避難誘導で忙しそうだ。
この街で一番大きい建物に来ては見たはいいものの、接近している龍しか見えないな。
「そうは思わないか?……レオ」
「はぁ、はぁ、はぁ……絶対、行かせない!」
「その身体で何が出来る。大人しくすれば、オレはオマエを殺さない。オレ自身が、それを望んでいない。オレはオレ自身には忠実だが、ある目的を持っている事に変りは無い。霧原零は人形ではないが、オレは人形だ。霧原零という人間の中に創られた、人工的な人格だ。でもレオ、これってオカシイ話とは思わないか?」
「何が、だ」
「オレという存在が消えてなかったんだ。なら何故、オレという霧原零は、記憶を竜也と共有している必要があったと思う?」
「……??」
空を見ながら、話す彼をレオは不思議に思った。
彼の話し方が、どこか……寂しいと思ったから。
「答えは一つだ。霧原零は、オレという存在を消し去りたいからだ」
振り向く彼の表情は、微かに悲しさを帯びていた。
「……お前の時って、零の兄ちゃんの方はどうなっているんだ?」
「オレ自身は今、意識も共有しているよ。眠るわけでもなく、ただオレの隣で黙って聞いてる。まるで自分の使命であるかのように、な」
「でもそれじゃ……」
「……でもそれじゃあ、僕は彼女達を騙していた事になる。そう言われても、仕方ないよね」
「……零の、兄ちゃん?……」
「うん。さっきは傷つけてごめん。でも……僕には時間が無いんだ」
「時間って……」
「――行くよ、ウロボロス」
「――まっ!……て……」
零はレオを気を失わせ、その場から離れる。
立ち去る零の竜紋は、右手から右肩へと侵食していた――
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ドクン、と鼓動が身体と共に跳ねる。
その感覚に驚き、竜也は攻撃への反応が遅れる。
攻撃が頬を掠め、目の前の彼女を睨む。
「――くっ……キリ、カ……」
「……?」
意識が戻ってきているのか。なら一度、気を失わせるのも有りか。
――カチャ、カチャ。
コッキング音が響き、竜也は彼女の方へ視線を動かす。
「(選択は決まったようだな)へぇ、いい眼になったじゃねぇの」
「勘違いしないで。ウチは、あーちゃんを殺すつもりなんて無い。ただ友達を見捨てたり、もう……誰かが傷つくのは見たくないだけ」
「まぁ、勝手にしな。……ほじゃまぁ、一時的な共闘といこうか」
「安心して。隙があれば、ウチが背中を打ち抜く」
「俺は何を安心すれば良いんだ?前も敵、後ろも敵じゃ、助けられるものも助けられないぜ?」
「――弾け、トリシューラ」
それじゃあ、俺も力を解放するか。
零が動いたのなら、俺も動く必要があるしな……。
竜也は剣を構え、竜紋を剣へと翳す
竜紋が反応し、それを見届けると彼は口を開く。
「壊せ。――ディアボロス」
発動された竜紋によって、竜也の姿は黒い鎧を纏う。
その姿はまるで、竜騎士のようだった――




