【真のドラグニカ】
空が灰色に埋まり、僕は焦りすら覚える。
別に空が灰色になる事に対して、焦っている訳ではない。
今の僕には、確かに分かるのだ。右手の竜紋が疼くように。
ざわざわとした風が、僕の心の中まで入ってくるような不安感。
だから今は、足を止める訳にはいかない。
大事な友達を、彼女達を助ける為に。大事な家族を助ける為に……。
『余計な事を考えれば、我が主でさえも消えるぞ?』
「それでも、僕は人形で無い事を証明するよ。だって人形なら、笑ったり泣いたり、怒ったりも出来ないじゃないか。それに……」
『……?』
「僕は君と契りを結ぶよ。だけどまだ、僕は僕のままで。亜理紗達に言わなきゃいけない事があるんだ。勿論、竜也にも……」
『なら、行くが良い。己が信ずる、その道へと行く為に』
『……悪いけど、ここから先へは行かせない。それがボクの仕事だから』
「――っ!?」
一人の少年が、僕の目の前に空から降ってくる。
少年は手を広げ、僕の道を塞ぐ。
「……ごめんね、零の兄ちゃん」
「……どうして、君が……」
「答える義務、ボクには無いよ。――吹き飛ばせ、ワイバーン!」
少年は瞳を光らせ、短剣を出現させる。
でもそれより驚いたのは、彼の竜紋を位置が……。
「レオ……君、左目に」
「ボクの竜紋は、見てのとおり目に刻まれているよ。だけどこれは戦う時だけ」
「僕と君が戦う理由はっ」
「――理由なんて要らない!ここで戦う事が、この世の筋書きなんだ!……ワイバーンっ!」
「――くっ!?(速い!)」
間合いを詰められ、零は懐に入られる。
レオはすかさず、零の腹部へと重い一撃を繰り出す。
油断していた零にとって、この一撃は致命傷だ。
「……ウロボロス、力を解け。これは命令だ……」
「――っ!?」
レオは殺気を感じ、攻撃をフェイントにして間合いを作る。
「悪いけど、時間が無いんだ。レオ、君の相手はまた今度」
「――っ?!」
真横に来た零の姿を見て、レオは恐怖した。
零の発していた雰囲気が、黒く殺気に満ちていた事に。
再び間合いを作り、建物の屋上へと移動する。
レオの能力は自身の速度が急激に上昇し、それを駆使するのが彼の戦術でもあり彼の力だ。
だが先ほどの零の動きは、その遥か上を越えていたと言っても過言ではない。
それと共にレオは殺気を感じ、一瞬の怯えによって彼を後退させてしまった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……さっきのは、一体」
「――知りたいか?」
背後から声がして、すかさず間合いを作る。
零は追わず、離れたレオを見る。
「お前、誰だ。ボクの知ってる兄ちゃんじゃ、無いみたいだけど」
「察しが良くて助かるが、〝オレ〟は間違いなく霧原零だ。ただし、少し違うのは……」
「(――っ!しまっ!?)」
「さっきより、好戦的になったぐらいだな」
「――がはっ!!!!」
すぐに間合いを詰められ、レオは蹴り飛ばされた。
壁に叩きつけられた衝撃が、レオの背中に激痛を走らせる。
「久方振りだな、ウロボロス。さて、再契約だ。オレと契れ」
『了承しよう、もはや異論はない。その状態の主ならばな……』
「当たり前だ。オレを誰だと思ってる?オマエらの王だぜ?」
「――っ、げほげほっ!お前、何者なんだ」
血を吐き、レオは零へ問いかける。
その様子を見て、彼は口角を上げて言った。
「へぇ、まだ立つかよ。結構良い蹴りしたと思ったが、久しく戦闘から離れたから鈍ったか。……まぁ、オマエの質問に答えるなら……」
殺気を放ち、雰囲気が変った彼は不気味に笑った。
レオは目を疑った、変ったのは雰囲気だけでは無かった。
「――真のドラグニカ。全てを統べる、龍の王とでも言っておこうか」
レオは見たのは、彼の目だ。
紅に燃え、まるで龍の目のような冷たい眼。
そして微かに感じたのは、自分自身の違和感だ。
「――ワイバーンっ!……え?どうして?」
レオは、血に写った自分の顔を見て驚いた。
そこに写ったのは、竜紋も何も無い。ただの少年の顔だけだった――




