【灰色の空】 [亜理紗・桐華編]
今持ってる記憶が、自分の物ではないとしたら……君はどうする?
そんな事を知れば、誰だって生きる事をやめるだろう。
或いは……自分の記憶だと泣き叫ぶだろう。
でも僕は、その両方にするよ。
『契約を唱えよ、我が主』
「また会えて嬉しいよ、ウロボロス。君と話すのは、僕と竜也が遊んでた時以来だ」
僕は口角を上げて、自分の中へ話しかける。
竜紋が反応し、走る僕の影は形を変える。
『記憶が、戻ったのだな?』
「うん。戻ったというよりかは、返してもらったって言うのかな。自発的に思い出したわけじゃないから、返してもらったで良いと思う」
『戻ったという事は良い事だ、我が主。だが主よ、今の主では我の力は使えないぞ?』
「え、そうなの?……」
いきなり困ってしまった。
これから彼との戦闘があるかもしれないのに、このままでは彼女達の足をまた引っ張ってしまうだけだ。
足を止めず、目的地へと進み続ける。
このまま着いてしまえば、足手まといになりかねない。
……さて、どうしたものか。
「ウロボロス、一つ聞いて良い?」
『……何かあったか、我が主?』
走っていた足を止め、先を見据えて僕は言った。
聞いていいのか分からない、その内容を。
「――僕は、人形なのかな?」
そう問いだした時の空は、灰色の空で埋まっていた。
まるで、僕の心を表すかのように……。
・・・・・
彼、霧原竜也と遭遇して約一ヶ月。
私と桐華は、彼と行動を取る事を控えていた。
控えていたのは、彼が嫌いだからではない。彼を守るためにという行動だ。
それなのに数日後、霧原竜也から連絡が来た。
『……よぉ、レストラン以来だな。お前に良い事を教えてやるよ、亜理紗』
「どうして私の携帯の番号を知ってるの?って聞くのは野暮かしらね。今、貴方の相手をしてる暇はないの。私は今から、友達を探すので忙しいのだけど?」
『そう怒るなよ。それにお前が探しているのは、零の事だろう?探しても無駄だぞっていう事は、レストランの時に言ったはずだけどな』
「貴方が嘘を言っている、という説を仮定に今行動しているわ」
『お前、実は零の事どうでもいいだろ』
「何よ、貴方は私に零を返してとでも言って欲しいの?……残念ながら、それは必要無いわ」
『……どういう意味だ?』
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――カチャ。
背後で微かにコッキング音が聞こえた途端、反応が少し遅れた。
「動かないで。頭、打ち抜かれたくなかったらね」
「――っ!?」
『貴方の居場所くらい、私達は把握しているからよ』
背後にいた彼女の気配に、俺が気づけなかった。
まさかこいつに背中を取られるとは、気を抜きすぎたか。
『今そこに、桐華が貴方に銃を向けているはずよ』
「いつから俺を?」
「あーちゃんに怪我をさせたくないから、ウチが独断で行動してたの」
『桐華は、そんじょそこらのドラグニカとは違うのよ。彼女の技術は、過去の訓練で身体に染み付いているの』
「軍隊経験でもあるのか?」
「……あるよ。ウチは中学校に入る前から、海外で訓練されてたからね。零君にもあーちゃんにも、ましてや君とでもやり合えるよ」
「……へぇ……」
右手の竜紋は、携帯を持っていて使えないが左手は自由。
銃を突きつけられている以上、迂闊な行動は避けるべきだろう。
だがこれが、普通の人間ならという話だ。
俺を含め、背後にいる彼女も「龍の力」というのを持っている。
ドラグニカの力の差は、龍によって変化する。
……俺をあまり失望させるなよ、藍原桐華。
「――亜理紗、一つ忠告してやるよ」
『……何よ』
「ドラグニカとの戦闘において、最も重要視しなくてはならないモノは何だと思う?」
俺は謎掛けのように、彼女に問いかける。
背後では、まだ銃を向ける彼女の姿がある。
『……相手の龍の特徴を確認、出来るまで離れ、て……』
受話器越しの彼女の声が、そう発した瞬間……
彼は口角を上げた。
『――桐華、すぐに離れてっ!!!!!』
「――もう遅せぇよ!!!」
「――っ!?」
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――バーン!!!
受話器越しに彼女の銃声が鳴り響く。
「――桐華、桐華!」
『……あーちゃん……』
「桐華!」
微かに聞こえる彼女の声は、不吉な予感を漂わせる。
私にとってそれは、一つの喪失になりえる事だ。
「桐華、お願い!あいつから逃げ切って!」
『……あーちゃん……』
弱弱しい彼女の声は、また私の名を呼んだ。
まるでこちらの声が、聞こえていないように。
『……ごめん、ね……』
「……え?……きり、か……桐華返事して!」
ガサガサ、と受話器越しに音が聞こえた。
そして私は、全身の力が抜けた。
『――やっぱり弱いな、人間は』
その言葉によって、私は全てを理解した。
頭は真っ白になり、やがて私の中で何かが溢れ出る感覚がした。
影は私を包み、それはこう問いかけてきた。
『……お前は何を望む?』
私は手を影に伸ばし、それを掴んだ。
「私は……彼を殺す」
その言葉を発した途端、私は暗闇へ包まれた――




