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細工師の町の展覧会6

「君、忌み子じゃないんだって?」

「あら、まぁ!」


 ルシオの言葉に、ロジーは目をふせた。

 そっとふせた睫毛は瞳を覆い、うるむ瞳は部屋の明かりを反射させて煌めく。──が、その手はポンポンと枕をはたいている。ひどい光景だった。



「あ、悪いけど色仕掛けはきかない」

「まったくです。ご主人様に色仕掛けをするなら、その枕を置いてからにしてください」

『ええ。末のは、母上が理想の女性だと公言してはばかりませんからね。気持ちはわかりますが、人族としてどうなのかと疑問はあります』


 三者三様に言われて、ロジーは仕事の手を止めた。

 ごそごそと前掛けを脱いで、スカートの塵を払う。髪をまとめていた三角巾を取り払い、髪を撫でつける。そして、改めて目に涙をためた。


「ひどいですわ、ご主人様。わたくしは──」

「まだがんばれると思ってるのが、無理。大人しく諦めろ」


 ロジーは涙を浮かべたまま、ちらりとフィアを見て、眠ったままの子供に視線を落として「外に人はいますか?」と聞いた。


「いや、気配はないな。

 俺が話すが、自分で話すか、どちらが良い?」

「……わたくしが話しますわ。愚かな家族の話です──強欲で愚かな、わかりやすい男の話。

 わたくしの兄のサジーは、工房を手に入れようとしているのです。けれど、わたくしがいた。工房の親方の一人娘であり、その才能(ギフト)を正しく継いだわたくしが。養い子の兄では、正当な後継者であるわたくしをおいて後継者にはなれない。

 最初はわたくしを妻に迎えようとしていたのですわ。──でも、兄の妻なんて、わたくしが嫌だった。わたくしにだって恋人がいますから。それに家族として育った"兄"の妻だなんて気持ち悪くて。

 ちょうど兄を嫌っているとばれた時からですわ、いろいろな方に脅されるようになりましたの。ここのご主人もその一人。

 だから、父に言いましたの。"ギフト"がなくなって"忌み子"になった、と」

「しかし、疑問が残ります。あなたの父親はそれを信じたのですか? 己の娘が忌み子だなどと……神官に確認を求める事だって、できたはずです」


 落ち着いたフィアの疑問は、ロジーの嘲笑に弾かれた。


「兄は──みなさんもご存じのとおり外面(そとづら)は、あ、失礼。ええと、一見良い人ですから。父も兄を信じ切っておりますの。その兄が、みなの前で"わたくしが忌み子になった"と言えば、それが真実なのですわ。

 本当に、歪んでおります」

「つまり信用の問題ということですね」

「じゃぁ、確認だ。どうして初対面で嫌がらせのようなことをした? 宿から追い出そうとしたのはなぜだ?」

「兄は──。

 言いましたように、兄は強欲です。欲しいモノは何としても、どんな手を使っても手に入れてきました。

 今、兄が欲しがっているのは何でしょうか? 

 あなた方が持っている希少な月光石。確かに月光石は高価ですが、命にはかえられませんでしょう?

 申し訳ありませんが、父に預けられた月光石は諦めていただこうと思いましたの。そうすれば、命は助かりますもの」


 ロジーの言葉に、ルシオが天井を仰ぎ見た。ロジーから視線を逸らせて気まずそうに言う。


「その忠告は……残念だが、もう襲われたぞ」

「え! まさか、そんな──わたくしが宿にいる間は手を出さないと、兄と約束をしましたのに」

「ロジー。あなたの言葉から察するに、あなたの兄は嘘つきです。そんな人なのに、あなたとの約束だけ守ると思いますか?」

「そんな。兄は、そこまで──」


 そんなわけがありません、とフィアが冷たく切り捨てるのに、がっくりとロジーは崩れ落ちた。


『末の弟よ。どうにか助けてあげられませんか? この娘は、彼女なりにあなたを助けようとしたのでしょう?』

「そうですね……さて、どうしましょうか?」


 龍王に促されてルシオが腕をくむ。さて、ロジーをどうしようかと考えているのだ。


「ロジー、君はどうしたい? このままずっと兄の言いなりになるのか?」

「それでもいいと思っていました。

 兄は、欲張りですが腕は小さい人です。目の前の物を欲しがるだけの子供なのです──それですむのならば、と思っていました。

 でも、こんな。何の関係もない方を襲うような人だったなんて……。わたくしは、もう、どうすれば良いのか」


 今度こそ本当に涙を流すロジーに、ルシオは困ったと呟いた。

 助けようにもロジー自身の希望がわからなければ、どうしようもないのだ。


「もしも、この町から出たいなら、一緒に来ればいい。ずっとは無理だが、別の町へ行くくらいはいいだろう。

 たとえば、今度の展覧会に出たいと言うなら、原材料を貸してもいい。それで良い品を作って、見返してやるのもいいだろう」


 ルシオの言葉に、ロジーは首を振った。


「あなたは、月光石の価値をご存じありませんから。

 月光石と星光石では、その価値が天と地ほどに違います。星光石でどんな美しい細工を施しても、月光石の輝きに勝てるわけがありません。

 月光石はそれそのものが、芸術品なのですもの」

「誰が"星光石"を使うって言った?」


 ルシオがフィアに言ってとりださせたのは、きらびやかな光を放つ月光石。その大きさは親方が持って帰った物と同じか、少し大き目の物だった。


「は……え? うそ。これは、月光石、ですの?」

「そうだ。君の父親が持って帰ったのと同じサイズだ。で、どうする?」

「確かに、これを使えば、父に──兄に勝てますわ。それだけの腕がわたくし()にはありますもの。でも──いえ──」


 少し考えて、ロジーは心を決めた。まっすぐな瞳でルシオを見る。


「お願い致します。月光石を貸して下さい。わたくしは──わたくし()は、その作品で展覧会に参加します。そして、正々堂々とこの町を出て行きますわ」


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