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細工師の町の展覧会3

「今日から身の回りのお世話をします、ロジーと申します。どうぞ宜しく」


 翌朝、朝食を食べに出たルシオ達を待っていたのは、長い金髪をくるんとカールさせた美少女と若旦那だった。


「は? ええと、誰?」

「おお、おはようございます! これはロザリスと言いまして。我が家で生まれた"忌み子"なのです。

 お恥ずかしながら、家財一式かき集めても月光石に届きませんでしたので、こんなのでも足しになればと。

 これは読み書きもできますし、簡単な計算もできます。きっとお役にたつかと」

「いえ、しかし……。人を一人養うのは、そう簡単じゃぁ」

「? 忌み子ですよ? 人ではない、これは奴隷です」


 ぴく、とルシオが体をふるわせる。少しきつめになった視線を若旦那に向けかけて、フィアに腕を捕まれた。

 ふるふると、フィアが首を振るわせるのを見て、ルシオは深く息をつく。

 二人の様子を、ロジーは不気味なほどの笑みを浮かべて見ていた。

 そのロジーにむけて、ルシオが話をふった。


「ロジーさんは、それで良いのか?」

「もちろんです、旦那様。精神精鋭お勤め(・・・)するようにと、しっかり言われておりますから」

「んん?」


 その言い方に、ルシオは小さな違和感を覚えた。

 小さくても違和感は違和感。そっとロジーの表情を伺うが、張り付いた笑みに遮られてしまう。

 ただ、一筋縄ではいかない、面倒な女性だというのだけはわかった。


「けれど、どんな人かもわからないのに、ホイホイと受け入れるわけにはいきません。

 あなたの家人だと言ってましたね。なら、どこかに勤めに出たわけでもない。対外的な能力は未知数ということ。

 この人が月光石に相応しい人だと、誰が保証してくれますか?」

「その通りです。ご主人様の身の回りは、不肖このフィアが担っています。十二分とはいきませんが、人並みの生活は提供できていると自負しています。

 あなたは、何ができますか?

 片付けが上手ですか、料理が、洗濯が得意なのですか?」

「まぁ! 料理洗濯だなんて。兄が申しましたように、わたくしは頭を使う事が得意です」


 あ、これ残念な人だ、とルシオは見切りをつけた。

 "忌み子"が名前だけで差別されるのは、ルシオにとって許せない事だが──ロジーは違った。

 そう意識を切り替えて観察すると、見えなかったものが見えてくる。

 奴隷だというわりには、髪には艶があり、カールさせた髪を留める細工物も丁寧な作りだった。口には紅が塗られているし、目元にはアイラインを引いている。

 体の線を強調する流れるようなワンピースも特注品だろう。しかも汚れ一つついてはいなかった。

 さて、それで何ができるというつもりか。


「すみません。口ばかり達者で。ですが、奴隷としてお仕えする以上、何でもしますから。ほら、お前も頭を下げて」

「ちょ……兄様、何を……痛い、痛いですわ」


 勢いよく頭を下げる兄妹──ロジーの頭は若旦那の手によって机に擦りつけられていた──を前に、ルシオは考えた。


 "忌み子"とは、天職(ギフト)を持たない者の総称である。ギフトとはつまり、細工師や、動物使い等の事だ。

 生まれたときに決められた運命──天命ともいえるそれを持たない者は忌み嫌われ、忌み子として差別されるのだ。


 ただ、忌み子には二種類ある。

 ギフトを持たず生まれてきた、先天性の者と。

 成長途中でギフトが消える、後天性の者とである。

 先天性と後天性。

 どちらが良いわけでも、悪いわけでもない。

 ただ、先天性の者は卑屈になりやすく、後天性の者は性格に問題がある者が多かった。

 ちょうど、目の前のロジーのように、である。


「ちゃんとお仕えするんだよ」

「わかっています。ちゃんと(・・・・)、ね」

「こちらにも選ぶ権利があるはずです。いりません」


 再びの嫌な予感に襲われたルシオは、きっぱりと切って捨てたのだった。


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