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白の巫女1

「この子は──忌み子ですかな」


 細工師の町の神殿に勤める神官は、たった三人だった。本来ならば、神殿とは心の拠り所であり、住人達のいさかいがあった場合に仲介にはいる者達だ。たった三人ではまともな奉仕はできないのだが、こも町ではそれらを細工師組合が担っている。

 そのために、ここでの神殿の仕事は多くはない。

 人々の弔いと、たまに訪れる信者の相手──それだけが神殿の仕事だった。そのため、たった三人──しかもあまり優秀ではない三人でも、なんとかやっていけているのだった。


 そのうちの一人が、フィア達に応対していた。

 まず、フィアとターラの襟章を確認し、それからイオを見る。イオがなんの証もつけていないのを見て、"忌み子"だと断言した。


「はい。縁があり求めた子です。本日は、この子のギフトの確認をお願いしたくまいりました」

「……忌み子の、ですかな」


 フィアの言葉に、神官は懐疑的だった。忌み子と分かっている者をなぜ、と疑っている。

 その視線にさらされて、イオも怯えてフィアにすがりついた。


「なんの為に神殿に来たのかと思ったが、そんなつまらん事をしに来たのか。

 まったく、忌み子は忌み子だろう。ギフトがないから忌み子なんじゃないか。それを──」

「そちらの方の言われるように、忌み子にはギフトはありません。それでも確認なさいますか?」

「承知しております。どうぞ、こちらをお受け取りください」


 フィアが懐から取り出したのは、銀貨がつまった小袋だった。フィアはそれを謝礼にと神官に渡そうとして、ターラの手にそれを奪われた。

 ターラはくくられた口を開くと、興味津々に覗きこんで声をあげる。


「わ! 忌み子にこんなに金を使うのか? やめておいたほうが良いぞ」

「余計なお世話です。それを神官殿にお渡しください」

「本当によろしいのですか」

「あ、あの。フィアさま。イオに、おかねつかわないで」


 ふるふるとイオにまで言われて、フィアがため息をつく。どうしてこんなに否定されないといけないのか、と情けなくなったのだ。


「私の行動を制限なさる権利は、あなた方にはありません。

 重ねて言います。ターラさん、その袋を神官殿にお渡しください」


 とうとう敬称がなくなったターラが、しぶしぶとフィアの言葉に従う。

 神官は袋を受け取って、中身を確認すると先程のターラのように驚いた顔になった。


「……どれほどお心付けをいただこうと、ギフトがないならば"忌み子"であることにかわりはありません。

 これを偽ることはありませんよ?」

「わかっております。さ、イオ」


 捨て銭だとターラが渋るのを無視して、フィアはイオを前に出す。さあ、と言われたイオはどうすればと迷って──もう一度フィアに声をかけられて、諦めたように前へ出た。


「フィアさま。イオは、イオがイミゴ、キライ?」

「いいえ。イオは好きですよ。忌み子だとか、そういうのは関係ありません。だから安心して行ってください」

「はい」


 しぶしぶとイオは神官に従って歩き出す。

 その後も、ターラはフィアに向かって文句を言い続けたのだった。



 ○ ○ ○



「おい、動物使い。すごいぞ。フィアはまさしく神の巫女だ」


 興奮に頬を赤くして、ターラはルシオの部屋へ駆けこんできた。ノックもなく、力任せに開けられた扉がキイキイと音を立てている。


「ん? おい、動物使い」


 ようやく追いついたフィアが、壊れた扉を見て溜息をついた。


「扉を壊したのですね。あとで宿屋のご主人に弁償をしてくださいね」

「そんなことより。大切なのはフィアのことだろう。

 なあ、あんな動物使いと一緒にいる必要はないだろう。一緒に大神殿に行かないか。あそこならば、フィアのギフトも、もっと有効に使える。フィアほどの巫女は初めて見た」


 突っ走るターラを止めるのは難儀すると、フィアは涼しい顔をしたターラを見ながら思った。



 先ほど、イオは"神官"のギフトを受けることができたのだ。ギフトを持つ者は忌み子ではない。

 これにはイオ自身も、確認した神官も信じられないと驚きを露わにしていた。そもそもイオはこの町の出身で──と言う事はこの神殿で"忌み子"と烙印をおされたのだ。

 それが間違っていたと言う事になり、神殿はひどい混乱に落ちていた。


 そんな中、ターラはフィアの職業を思い出して、口にしていた。

 つまりフィアは巫女──神の力を行使できる存在であり、だからイオもギフトが授かることができたのだと。


「は?」

「うぇ。ごしゅじんさまは?」


 フィアとイオの不思議そうな顔も──というか、不満げな顔もどこ吹く風というところ。

 胸をはったターラの宣言を聞いて、三人の神官たちはフィアにすがるような視線を向けた。


「本当なのですか? 本物の巫女でいらっしゃると?」

「神のお力を使えるのですか?」

「忌み子にギフトを授けられるのですか?」

「いいえ。私にそのようなことは──」

「できるとも! フィアには簡単なことだ」


 神官達の言葉に否定を返すフィアの言葉は、ターラの大声によってかき消された。


「おお、巫女様!」

「どうか、他の忌み子たちにもお力をお授け下さい。神の手から零れた者達に祝福を」

「お願い致します!」

「まかせろ。フィアになら出来る。が、フィアはある動物使いと一緒にいるからな。フィアが動くためには彼の許可がいるか……よし。ちょっと待っていろ」

「お待ちください。どこへ──イオ、少しここで待っていてくださいね」


 走り出したターラを追って、フィアが神殿から飛び出す。今の話の流れからすると、ターラはルシオのところへ──つまり、宿へ向かったのだろうと当たりをつけたフィアは、人込みを避けて裏道を走り出した。

 そして、ターラが宿の扉を壊したところに追いついたのだった。


 人の話を聞かず、突っ走って宿屋(たにん)備品(とびら)を壊す──信じられないうえに、とんだ乱暴者だと、フィアはターラと一緒に行動しなくてはいけない己の境遇を嘆いた。

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