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満月の夜に2

 予定よりも遅く、しかも少女(リカ)を連れて帰って来たルシオに、龍王は諦めのため息をつき、フィアは呆れた顔をした。


 常人ならば片道二日。往復で四日から五日かかる道のりを、日帰りで出かけてくる、と言ったのはルシオだった。

 龍王もフィアも、ルシオがそれを可能だと知っているから、自由にさせたのだが、まさかそこで少女を拾ってくるとは思っていなかった。

 しかも、その少女はわけありである。


『また、なんというか……どうしてそんな子供を拾って来たのですか』

「問題児を拾うことにかけては、ご主人様の右に出るものはいらっしゃいません。わたしなど足元に及ぶものではありません。

 それで、この子はどのような問題があるのでしょうか」


 イオのいれてくれたお茶に口をつけて、フィアが首をひねる。その横に甘えるようにイオが座ってきた。

 イオにとってはフィアは命の恩人であり、仕事を教えてくれる上司でもある。そのフィアが"ご主人様"と呼ぶルシオは、フィアにとっては遥か雲の上の人だった。


「あう。それは、その、ご迷惑をおかけします」


 リカは体を小さくして謝る。


「リカは"妖精の取り換えっ子"だ。……ああ、否定するんだな、わかっている」


 ルシオの言葉に否定を言いかけたリカを、ルシオは軽く流した。


「リカは、細工師()の町の生まれで、ギフトに細工師を持っているわりには才能がない。そして、彼女の周囲では奇怪な現象が続いたそうだ」

「お師匠……才能がないって、はっきりと言われると傷つきます」

『細工師の才能ですか。それは、まぁ、ないでしょうね』


 本人がいくら否定しようとも、リカの本質は妖精族である。それも、下半身が蛇である人蛇族の王の子──王種だ。それが細工師(ヒト)のギフトなど持っているはずがない。

 これは、偽装とかそういうもので"人"だと誤魔化しているだけなのだから。


「はて? 奇怪な現象とは、どのようなものでしょうか?」

「ああ……リカの仕事になった、鉱石の粉砕が寝ている間に終わっているとか。リカが見るときの炎が元気すぎるとか。リカの服だけ、繕われているとか……」

「全部妖精さんがしてくれてたんです。なのに、あたしったらお礼もできなかった。声が聞こえないからって、ぼんやりしてました。失敗です!」

「……リカに片思いした男が、半殺しにあったとか」

「変態だったので、当然です!」


 握りこぶしを作ってリカが主張する。


「嫌な男に力ずくで迫られて拒絶したところ、町を追われちゃったんです。ブサイクなのに、金ナシ、玉ナシ、根性ナシのダメダメ男でした。

 うん、反撃したあたし、エライ!」

「立派な傷害事件だったそうだ」

「町を追い出される時に、一通りの道具は持って出ましてー。それで、ほそぼそと森の中で生活してました。

 師匠と出会った精霊の祠周辺は、食べ物が豊富で、水も澄んでいて、外敵もいないし、人も来ない。一人暮らしにはすっごく条件がいいんです!」

「……妖精族は、一杯のミルクで数日もつという、あまり食事をとらない種族だからな」

「しかし、それで良く町に入れたと感心いたします。追放された場合、二度と町に帰れないのが普通ではないのですか?」


 フィアの言葉に、リカが唸った。

 リカ自身にはわかっていない変化があり、問題なく町中に入れてしまったのだ。

 指摘したルシオ自身、まさか本当に"そう"だとは思っていなかったのだが。


「擬態が解けてきているんだ」

「お師匠! 何度も言いますけど、あたしは、リカは人間なんですー。これは、ただ痩せちゃって、ちょっぴり見た目が変わっちゃっただけなんです」


 ちらり、とルシオがリカの青銀の髪を見る。フィアとイオも促されるように、艶のある真っ直ぐな銀髪に視線を定めた。


「これは……また、見事な銀髪でいらっしゃいますね」

「リカ様、きれいです」

「……嬉しいけど複雑です。生まれたときから十五年、赤毛の癖っ毛だったのに……毎朝、あんなに苦労していたのに……」


 自分のまっすぐな髪を一房、弄びながらリカが言う。


「変化は髪の色だけなのですか?」

「ううん。肌の色も変わったの。日に焼けてコンガリしていたのに、色白になっちゃったし。しっかりつけてた筋肉もなくなっちゃったし。ううー。筋肉と腕力返せー。

 たった一月森に篭っただけで、こんな貧相な体になっちゃうなんて。チクショウ、あたしが何をしたの」

「異界との狭間の門──清浄なうえに、人にも祀られている潔斎の場。そこで一月の間、生活していたというのなら、その変わりようも仕方ないだろう」


 ルシオの言葉に、リカは非難の色を浮かべてルシオを見た。


「むしろわからんのは、だ。なぜそんなに"妖精族"であることを否定する? 妖精と話したい、と言っていなかったか?」

「むー。そうなんですけどー。あたし自身が妖精っていうのは、期待していなくって。あたしが混ざることで、妖精さんの平均値が下がるからやめてくれっていうか?」


 照れたようなリカの言葉を聞いて、ルシオは三人に声をかけた。


「理解できる人いるか?」

「はい!」


 フィアが首を振り、龍王が尻尾を振って否定する中、元気良く手をあげたのはイオだった。


「おいしいゴハン、玉ねぎ、いらない、です」


 満面の笑みで告げられた言葉に、イオ以外の三人はそろって疑問を浮かべたのだった。


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