東條内閣
昭和16年10月18日土曜日、早朝、陸相官邸
10月18日は、靖国神社の大祭の日である。
東條陸相は赤松秘書官(首相秘書官予定)を伴い、参拝した。
赤松はずっと時計を見ていたが、何も起こらなかった。やれやれ。
陸相官邸に戻ると、海軍の豊田大将が来ていたので東條は驚いた。呉鎮守府長官というから、東京に着くのは今晩か明朝と思っていた。どうも、海軍は一昨日の近衛内閣総辞職を受けて、要職全員を横須賀に招集していたらしい。
「おーっ。豊田大将、よくぞいらした」
「うむ。ま。その」
「いやー、こちらにどうぞ。どうぞ。にぎにぎ」
「あ。その。手は取らんでいい」
「なんのなんの。大将が来られて安心です。にこにこ」
「そうなのか?」
「はい。今日の内に内閣が発足できます。にまにま」
「いや、わしはまだ、その」
「なんと言われる。白紙還元と陸海軍協調ですぞ」
「いや、それは知っているが」
「はて。あと何が?」
「うむ、その、あの、なんだな。陸海軍での資源分配が、あれだな」
「はあ。今言うことですか?」
「だから、鉄とか石油とかの分配比率が、だな」
「はい、ですから、それは発足後の閣議で」
「ま、あの、何だ。軍艦は鉄でできており、油を燃やして走るのだ」
「かーっ。それぐらいは馬糞でも知っておる」
「そう馬糞・・・。いや、げふんげふん」
「ま、善処しましょう」
「いあや、わしも日本人だから、善処の意味は知っておる」
「はあ、はあ。よろしい。東條内閣では海軍の比率を上げる!」
「海相をお引き受けましょう」
東條首相は午後1時に閣僚名簿を捧呈し、午後4時に親任式を終えた。
ここに東條内閣が発足した。
記 閣僚名簿
内閣総理大臣 東條英機
司法大臣 岩村道世
外務大臣 重光葵
大蔵大臣 賀屋興宣
陸軍大臣 東條英機
海軍大臣 豊田副武
農林大臣 井野硯哉
文部大臣 橋田邦彦
内務大臣 東條英機
商工大臣 藤原銀次郎
逓信大臣 寺島健
鉄道大臣 寺島健
厚生大臣 小泉親彦
国務大臣 鈴木貞一
国務大臣 中野正剛
内閣書記官長 星野直樹
法制局長官 森山鋭一