表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LN東條戦記第1部「不戦宰相」  作者: 異不丸
第4章 坂のはじまり
39/43

軍務局長

昭和16年11月1日土曜日、首相公邸、午後。


大命降下の後の2週間は、東條の部下たちも働きづめだった。

新国策も定まり、陸軍改革の途が開けたところで、東條は今日の土曜日は半ドンとした。

秘書官らにもその旨を継げた後、首相公邸の日本屋で軍務局長の武藤中将を待つ。

夕方、武藤は言われたとおり、私服に着替えて来訪した。


「ま、やれ」

東條が燗瓶を持って、酌をする。

「いただきます」

差し向かいで飲むのは、初めてだろうか。

「武藤、長い間ご苦労だったな」

「はっ」

「貴公も中将になった。支那撤兵が本格化すれば、縮軍だ」

「はい。ご奉公です。覚悟はすでに」

「儂は連隊長はやったが、ついに師団長をやらずに大将になった」

「え?」

「連隊長をやれなかった貴公には、ちゃんと師団長をやってもらいたい」

「では、予備役ではないのですか」

「何を言うか。次の次、その次を考えろ」

「はあ」

「その前に満洲へ出張だ。出張中に尾崎の件の始末を考えておけ」

「はっ」

尾崎秀実は、例のらむぜい諜報団の日本人首領だ。武藤章は、尾崎と近い。陸軍で唯一、政治に接する軍務局勤めでは、自ずと閣僚・政治家やその周辺と近くなるのは避けられない。


「ま、それはいい。確かめておきたいことがある」

「はい」

「今回の始まりが腑に落ちん。ああ、日米交渉だ」

「あの神父たちが、余計でした」

「満洲国承認、さらに日支の仲介。話がうますぎた」

「帝国の懸案をすべて引き受けるとあっては、無視できません」

「そこだ。なぜ、その神父やらが、民間から来たと思う?」

「民間人なら、米国政府公式ではない。白を切れる」

「うむ、飲むか」

「はい。米国は、帝国を研究し尽くしております」

「国民感情に至るまでだ。悔しいことだが」

「要するに、米国は日支に介入したい。主導権をもちたい」

「いつからだろう」

「神父らの来日時期から類推すると、銭永銘工作のあたり」

「昨年の夏か。ふぅむ」

「米内内閣の退陣が7月の中です」

「近衛公が枢相を降りたのは、その1ヶ月ほどまえ」

「米国の対日禁輸が始まった頃だな」

「米国の一連の動きは、1つの筋書きに基づいているかと」

「政略があるのだな。軍官民一体か」

「米国の国家戦略と呼ぶべきでしょう」

「帝国ではそうはいかない。陸軍だけをとってみても」


武藤は驚いた。東條から愚痴じみたことを聞くとは。

「しかし、首相は新国策をまとめられた!」

「だが、日米交渉はこれからだ」

「あれだけの譲歩をしようというのです」

「米国の戦略が、日米妥結でないとすればどうだ?」

「なんと。帝国の屈服が目的だと言われますか」

「実際に開戦寸前まで来たのだ。2度目がないとは言えまい」

「日米開戦は帝国の崩壊と同義です」

「わかっておる。が、向こうにすれば、対日完全勝利だ」

弱気の虫か?武藤は酌をすると、自分もぐいと呷る。

「米国にも国体があります。米国国民の賛同、それを代表する議会」

「なんのことだ?」

「ル大統領と政府。それに対しての、米議会と米国民!」

「なるほど。さすがだな」

「国と国、軍と軍だけでもありません」

「総力戦か」

「正面交渉だけに限りません。浸透や迂回はどうです?」

「考えてみれば、帝国は横槍を喰らったのだな」

「さようです。奇襲となりました」

「うんうん。飲め」

「はい。大臣もどうぞ」


東條は煙草に火を点けると、マッチを回す。武藤も点ける。

「米国との対決はまだ続くと、わしは思う」

「日米妥結の後もですか」

「ああ。帝国の完全屈服までは続く」

「それで本土防衛の強化を」

「三国同盟よりは役に立つだろう」

「日米同盟はどうでしょうか?」

「可能だろう、いつかは」

「敵の存在ですね?」

「そうだ」

「対独開戦は、大儀がない」

「米国も帝国の助力を必要としまい」

「となれば、ソ連ですね」

「米国はソ連を支援している、今はな」

「ソ連が日米共通の敵となる日」

「長いぞ。独逸降伏のさらにあとになる」

「それまで、帝国が持ちますか」

「だから日米妥結だろう」

「しかし、首相は楽観はしておられない」

「だから長いと言っておる」

武藤は、しばらく天井を見ていた。

「首相、どうぞ」

「お。思いついたか」

「早く敵が現れればよいかと」

「そういうことだな」

「はい」

「では、飲もう。それから」

「はい」

「次の次は決まったぞ」

「え?」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ