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LN東條戦記第1部「不戦宰相」  作者: 異不丸
第3章 慎重なる考究を加うる
21/43

省部会議

昭和16年10月22日水曜日、昼前、陸相官邸


陸軍省と参謀本部の連絡会議は、このところ毎週開かれていた。

陸軍省から、東條陸相、木村次官、武藤軍務局長。参謀本部からは、杉山総長、塚田次長、田中作戦部長。

6人が話しているのは、もちろん国策再検討の和戦についてである。


「大臣、海軍から言質を引き出すためとはいえ、支那には勝てぬ、ですか?」

「已むを得まい。4年かかって勝ててないのは事実だ」

「負けたとは言っておられませんよ、総理は」

「それは、もういいだろ」

「しかし、支那から全面撤退とは」

「少しは部長も若い者を抑えてほしいな」

「な、なんと。総長」

「日曜日にわしが参内したのを忘れたか?」

「あ、あれは」

「大汗をかいたわ。誰のせいだと思っておるのか」

「まあまあ」

「そうです。今日は明日の話でしょう」

「ああ、そうだ。大本営政府連絡会議だ」

「首相、やはり開戦反対を言うのか?」

「無論。これは内閣の統一見解ですから」

「ま、それはいい。しかし、豊田海相も念を押したそうだが」

「はい?」

「勝てる負けないは、統帥部が最終判断する。それでいいな」

「負ける勝てない、の最終判断はそうです」

「「「ごほっごほっ」」」

「で、海軍はどう出るか?」

「海軍大臣の見解はここにあります。武藤」

「はっ。この通り」

「「「なにぃ。緊急造艦用に鉄を300万トン?!」」」

「それで3年暴れてやる、そうです」

「「「ふざけるなーっ」」」

「田中、300万トンあれば戦車師団がいくつできる」

「いえ、全軍を戦車師団にして、さらに重砲連隊がもれなくつきます」

「「「えええーっ」」」

「半分でいいから、その分弾薬工場を作ろう」

「なにせ、内地の兵隊には弾がありません」

「帝国の鉄の生産能力は、昨年で700万トンに届かないのです」

「それぐらいで止めておけ。貧乏自慢をしても始まらん」

「「「ぶつぶつ」」」


「さて、陸軍省は戦争反対。参謀本部はどうするか?」

「大本営陸軍部としては、海軍部が開戦を主張すれば、割れるわけにはいかん」

「しかし、勝てんでしょう?」

「いいや、海軍の馬鹿は、すべての鉄をよこせば勝てると言いかねん」

「陸軍を縮小して、そっくり陸戦隊によこせとくるでしょうな」

「海軍の下に入れと言うのか!」

「海軍が主であれば、陸軍は従ですからな」

「大臣、他人ごとではないですぞ」

「わかってるよ、田中。今にも殴りかかるような目で見るな」

「し、しかし」

「田中、止めておけ。東條大臣も陸軍軍人だ。所見はあるだろう」

「いかにも、ありますぞ。総長」

「あ、あるのか」

「陸軍主体での対米英蘭戦でよろしいか?」

「聞かせてくれ」

「はい、まず開戦相手を米、英、蘭それぞれに分けて考えます」

「うむ、いいぞ」

「まずは、蘭印。これは輸送手段さえあれば、蘭印全土も占領可能です」

「陸軍単独でか?」

「そうだな?武藤」

「海軍の護衛は2個戦隊か、多くても1個艦隊。蘭印の海軍力は知れてます」

「どうだ、田中?」

「そんなところでしょう。蘭印は島嶼で、敵も連結できない」

「田中部長の言う通り、大きな戦はジャワぐらいで、敵が2個師団集まるかどうか」

「よし、いいぞ」

「停戦と講和は蘭印総督との間で行い、阿蘭陀本国とは考えません」

「うむ、阿蘭陀は独逸占領下で、本国政府は英国に亡命中だ」

「ですから、参謀本部は対蘭戦に限っては、勝てるでかまいません」

「「「わかった」」」


「対英戦ですが、マレー戦は研究済みの通り。3個師団で十分」

「「「うんうんうん」」」

「問題は、ビルマへの進撃路と、対英講和の目算ですが」

「英国が降ると思うか?」

「英国が対独戦を戦えるのは、インドと米国があるからです」

「「「ふんふんふん」」」

「戦中はともかく、戦後は米国の物資は止まります」

「「「???」」」

「つまりインドの資源がないと英国の戦後の復興はできない」

「印度の確保が不可能となれば、英国に戦争継続の必然はない」

「「「そうなのか!」」」

「インドに独立運動を起こし、戦後も回復できないと英国に錯覚させるのが眼目」

「英国は、独立が成る前に帝国と講和して、インドを奪還したい筈です」

「マレーには大勢のインド人がおり、大半が英陸軍に動員されております」

「それを使うのか?」

「帝国陸軍は、英主力の撃滅だけに専念します」

「火付けだけで、夜盗は現地民に任せるのだな?」

「品がない。部長は時代劇の見過ぎだ」

「若い者が鬼平に似てると、むにゃむにゃ」

「進撃は海路が中心か?」

「正面の3個師団は自動車など動力移動」

「武藤、俺はいいが、整備するのは陸軍省だぞ?」

「そこで、支那撤兵だよ」

「「「あああ」」」

「思い切って解隊して師団数を減らす。浮いた装備を集める」

「弾薬も増産中だが、兵が半分に減ればこれも必要ない」

「どうだ、田中」

「総長、暗算中ですので声をかけないでください」

「「「「・・・・」」」」

「でました。師団数を半分なら、正面には十分な自動車と燃料が確保可能」

「当たり前のことだが、師団数半減なら、残りの装備更新も最速で進むぞ」

「乙師団を甲師団、甲師団を近衛なみにできるのか」

「できるとも。整備局の試算では、半年で可能だ」

「「「ちょっと、そこの二人。もういいかな?」」」

「「あ、どうぞ」」

「海軍の護衛兵力は2個艦隊か?」

「空母が最低で2隻。最初は戦艦も2隻欲しいな」

「海軍が出すか?」

「出さんだろう、陸軍のインド内陸侵攻と言えば」

「「「えええ」」」

「しかし、セイロンの英東洋艦隊撃滅と言えば、わらわらと」

「なるほど、海軍が主作戦で、陸軍は支作戦と」

「よって総長、参謀本部は対英戦には勝てるでよろしいかと」

「ただし支那撤兵の半年後だな。よしわかった」


それから対米戦に移ったが、これには思いのほか時間がかかった。

喧々諤々したが、陸軍の出番がない。孤島の守備隊ぐらいである。

比島の陸戦をやるかどうかで、軍務局長と作戦部長の取っ組み合いになった。

「俺はぜったいに比島なんかへは行かんぞー」

結局、対米戦では陸軍はどうやっても主役にならないので、比島も不戦となった。

「では、総長。対米戦だけは反対ということで」

「ああ、海軍が勝てると言ったときは、停戦・講和条件を質してやる」


午後3時、陸相執務室。

「閣下。思ったよりうまくいきましたな」

「うん、わしも驚いている」

「田中は単細胞です。それへ海軍との競争と言えば」

「「そうだな」」



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