序
昭和16年10月17日金曜日午後4時すぎ 宮城
直立して頭を下げた東條英機陸軍中将の上に、大きく凜とした声音が降下した。
「卿に内閣組織を命ず」
思わず、東條の体がびくりとした。
「憲法の条項を遵守するよう。時局は極めて重大なる事態に直面せるものと思う」
「此の際陸海軍は其の協力を一層密にすることに留意せよ」
「尚後刻海軍大臣を召し此の旨を話す積もりだ」
東條は、頭を下げたまま、ただ立ち尽くしていた。驚愕のあまり奉答も出来ない。
「漸時猶予を与える。海軍大臣と内大臣とよく相談するよう」
蒼白になった東條は、さらに頭を下げ、立ち続けた。
・・・・・・
「どうです?」
「何度見てもいいねぇ。よくできている。だいたいこんなものだよ」
50過ぎの男が二人、ノートPCで映画を見ながら話しこんでいる。
「あそこで頭の中が真っ白になってな。万事休して、神頼みとなったのだ」
「だいぶこちらの話し方に慣れましたね」
「すいぶんとなるからな」
「どうです。そろそろ感じますか?」
「うん、そろそろだと思う」
「この頃、わたしも感じるんですよ」
「そうか、では行くか」
しかし、二人が行き着いた先は、予想とはまったく異なっていた。