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スライムですべてを失い、スライムですべてを得た女

作者: 蟹地獄
掲載日:2026/04/25

かつてないほど平和な森に、ひとりの女冒険者がいた。

名はマリアナ。

剣の腕は一流、判断力も抜群。

ただし運だけが壊滅的だった。

「今日こそはまともな依頼を……って、なんでスライムしかいないのよこの森!」

そう叫んだ瞬間、足元が「ぷるん」と鳴った。

次の瞬間、彼女はすでにスライムの海の中だった。

「うわぁぁぁ!?ちょ、ちょっと待っ……これ数おかしくない!?」

スライムたちは無言で、しかし確実に仕事をしていた。

装備を溶かし、ブーツを溶かし、そして…

「やめなさい!そこは防具として大事なとこなの!」

じわじわと衣服は溶け、全身ぬるぬるの状態に。

剣も滑る。踏ん張りも効かない。完全に詰みである。

「終わったわね、私の冒険……。」

しかしその時、彼女は気づいた。

ぬるぬるのせいで……

「……あれ?」

スライムの攻撃が、全部ツルッと滑って当たらない。

むしろ彼女の方が、スライムの中を高速で滑走し始めた。

「え、ちょっと待ってこれ……速っ!?」

摩擦ゼロの体で森の中を爆走するマリアナ。

木々の間を縫い、スライムの群れを弾き飛ばし、気づけば………森の奥にあるダンジョンの最深部に、数秒で到達していた。

そこにいたのは、伝説の魔王。

「よく来たな勇者よ――」

ドゴォン!!!

ぬるぬるの勢いのまま突っ込んだマリアナが、魔王を壁ごとぶち抜いた。

沈黙。

煙の中、魔王は完全に壁にめり込んでいた。

「…………え?」

マリアナも固まる。

その時、どこからともなく声が響いた。

『討伐完了。報酬:100万ゴールド』

「え、倒したの!?今ので!?」

後日――

王都ではこう語り継がれた。

【史上最速で魔王を倒した伝説の冒険者、マリアナ】

そして彼女の二つ名は――

滑走王スライムスライダー。」

本人は未だに納得していない。

「違うのよ……あれ事故なのよ……!」

だが王国はすでに、彼女専用の【スライム風呂】を開発していた。

次の魔王討伐のために。

「やめて!!!もう二度とぬるぬるで戦いたくない!!!」

その叫びは、誰にも届かなかった。

完。

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