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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

おーるぼんの怖い&怖くない話

店番長

作者: おーるぼん
掲載日:2026/01/31

害虫駆除職人(?)の朝は遅い。


個人ではなく飲食店等の店舗を客の大半とする、我が社の場合は特にだ。


何故ならばそう、店が営業を終了した後になって初めて、我等駆除業者の戦いは幕を開けるのだから。


そして今度もまた、日がどっぷりと沈んだ頃に俺は動き始める。


今日の戦場は中華料理店だ。


食材もあれば油もこれでもかと使うのが中華料理店の常。さすれば害虫や鼠も湧くというもの。しかもその上巣まで作っている可能性も少なくはなく、相手としてはなかなかに手強い。


だがしかし、俺も今で四年目だ。これ以上の困難など幾度も潜り抜けて来ている。


歴戦の覇者とはまではいかぬものの、ベテランの域に片足を踏み込んでいるのだ。きっと今回の戦いも無事勝利を収められる事であろう。


そうして俺は戦いの場へと一歩踏み出して行った。


恐れも知らぬ傭兵であるはずのこの俺が害虫ではなく、予想外の〝あるもの〟に脅かされる事など露も知らずに。




店内は思いの外掃除が行き届いていた。今までに前例がない程。


床はギトギトとしているどころかまるで大理石のようであり、綺麗過ぎてまた別の意味でよく滑りそうだ。


また壁や天井にも跳ねた油の跡は愚か、チリや埃の姿一つとして見当たらない。更には隙など無いと言わんばかりに、その病的な清潔さは調理器具や食器類にまで手を伸ばしている。


俺は唖然とし、ただあんぐりと口を開けるばかりであった。


これでよく害虫などが入り込むものだ……とは言え、食材が光であれば奴等は影。その存在の痕跡ですらも逃さずにやって来る事など容易に想像出来る。


それに社長から聞いた話なのだが、ここの店主は偉く厳しい事で有名らしい。


だからもしかすると、店主が害虫のいるであろう微かな証拠を発見したか。もしくは事前の予防策としてウチに仕事を頼んだという可能性も十二分にあると言えるだろう。


それで思ったのだが、推測するにここまで店内の手入れがしっかりとされているのは、間違いなくその厳しい店主の方針なんだろうな。


……さて、探偵ごっこはここまでにしてそろそろ仕事を始めるとしよう。もう俺は戦場に突入してしまったのだからな。


俺はまず、店内を隅々まで確認する所から作業を始めた。


そうやって害虫の入り込む余地のある場所や、既に侵入されているのならば巣、潜伏先等を見極め、洗い出すのだ。


しかし、なかなか手頃なポイントは見つからない。ちなみに手頃というのは敵にとってそうだという意味だ。彼奴等が入り易い、または隠れ易い場所って事だな。


だが、珍しくもそれは厨房には無さそうである……なら次は奥の、確か店主曰く倉庫代わりとしているという従業員休憩室を覗いてみるとしようか。


俺は一旦這いつくばるのを止めて立ち上がり、その一室へと向かった。


従業員休憩室はすぐに見つかった。まあ、厨房の脇にあるのだから当たり前と言えばそうだが。


では早速、こちらも拝見させてもらう……俺は一度手袋を外し、そこを厨房とを隔てる扉に手を掛けた。


が、どうしてもそれ以上先の行動に移す事ができなかった。


「………………」


何やらその先から、人の声のようなものが聞こえてくるのだ。


何故なのだろう、もう店は閉まっているはずだ。翌日の仕込みにしても時間が遅過ぎる。でも、ならこれは一体何なのだと言うんだ?


「………………」


などと考えている間にもそれは続けられる。そして、俺はそこで漸く自身の推測が当たっているのだと確信した。


ああ間違いない。これは人の発する声だ。


だが、本当に何故なんだこれは?まさか幽霊……いやいや、そんなはずは。


俺は昼夜逆転、つまり深夜作業が殆どだ。その際、心霊現象なぞを体験した事なんて一度たりともなければ。寝不足や体調不良で心霊現象(それ)と似た夢幻を見た事も一切としてない。


そして霊感だってもちろん無い、そのはずなんだ。


しかし、何分それだけにどう足掻いても現状を理解する事ができず、俺はただ硬直しているしかなかった。石像のように固まった我が身を冷や汗だけが流れ落ちる。


「……い……い……」


そんな俺を置き去りにして、例の声は今も尚発せられている。


まだ意味までは分からないが、段々と何を言っているのか聞き取れるようになってきた。もしかすると声の主がこちらへと近付いているのかもしれない。


だというのに、俺はまだ硬直したまま、指一本さえまともに動かせない。身体が頑なに言う事を聞かなかったのだ。どれだけ『逃げろ』と合図を送ろうとも。


「……まい……まい……」


今度はまた声がよりはっきりと、しかも靴音やカチャカチャと鳴る何かしらの物音まで聞こえた。やはり相手が俺の元へと迫りつつあるのだ。


……もう、ダメかもしれない。俺はここで死んでしまうのかもしれない。


「七枚……八枚……」


コイツ、何か数えているのか……?


いや、そんな事は今はどうでも良い。今は逃げなければ、どうにかして身体を、脚を動かさなければ。


だがしかし、無情にもそれが叶う事はなく。俺は遂に初となる幽霊と……


「九枚……ああ、やっぱり一枚足りない……どうしたら良いんだろう、このままだと店長に……あれ、お客さんですか?」


「…………い、いえ、違います。駆除業者の者です」


もとい、随分と遅くまで居残っていた店員らしき人物と対面するのだった。




その店員らしき男から聞いた所によると、どうやら彼は営業中に皿を一枚割ってしまったようで。しかもそれだけでなく何と直後にクビを言い渡されてしまったそうなのだが。


『その十倍の枚数である十枚をこの部屋から探し当てるまでは帰ってはならない』などという理不尽な発言を店主から受け、それで今の今までこの場所で皿を探し続けていた……という事であったらしい。


ちなみにそれを聞いた俺はというと。残念ながら客先であり無関係でもあるそちら側の問題にまでは介入する事ができず、ただ淡々と作業をこなして家路に着いたのだが。


そこである事を、もっと言えば『幽霊よりも恐ろしいものはある』という事を学んだ。


そして、それは……人だ。


人は幽霊よりもよっぽど恐ろしい。自身のこの目で人の恐ろしさ、社会の闇を見た今の俺にははっきりとそう言い切る事ができる。

お読みいただきありがとうございます!また別の自作でもお会いできたらとても嬉しいです(´∀`)マタネ

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