①ヒロインになれない
もしも、この世に主人公がいるとしたら、
それはアリス・レンブラント。彼女だ。
太陽の光を浴びて輝く、カールした亜麻色の髪。エメラルドの潤んだ瞳。子猫みたいに小さな身体。
彼女と話すと、誰もが彼女を好きになる。
それは、私の婚約者のハロルドだとて例外ではなかった。
「やはり、美しいな。アリスは」
彼が窓から見下ろす先には、件のアリスがいる。
ハロルドは眩しそうに彼女を見下ろしていた。
「ハロルド様。窓の外ばかり眺めていないでください。まだ生徒会の仕事は終わってないのですから」
目線も上げず、咎めると彼は嫌味のように大きなため息をつき、席を立ち上がった。
そしてそのまま私の方まで歩み寄り、いたずらに、私の髪を一房摘んだ。
「黒いだけでつまらない髪だな。アリスとは大違いだ」
彼の手を払い、思わず睨み返す。
「その、血みたいな真っ赤な目も気持ちが悪い」
彼は叩かれた手をさすり、そのまま窓際まで戻って行った。
彼は窓を開けると、大きな声で眼下に向かって叫んだ。
「アリスー!今そっちにいくから待っててくれー!お茶でもしよう」
執務室を出て行こうと駆け出すハロルドの前に、私は立ち塞がった。
「いけません。ハロルド様。まだ生徒会の仕事が。あなたは生徒会長なんですよ!仕事を放って行かないでください」
彼は舌打ちをして、私を見上げた。
彼は、私より身長が低い。
昔はこんな関係じゃなかった。ハロルドは私より一つ上で、兄さんのような存在だった。子供の頃は一緒によく遊んだ。彼は私の黒い髪も赤い目も綺麗だと誉めてくれた。
私たちの関係が変わったのは、私がこの学園に入学してしばらく。
私の身長が、彼を超え始めた頃だった。
初めは気にしてなかった。
変わってしまったのは、学園の初めての社交パーティーで私と踊った時のこと。
誰かが言った。「女より男が低いと、様にならない」と。彼はそれ以来。私と踊ってはくれなくなった。身長なんてものは個人の努力でどうにもならないようで、ついに彼の成長は止まり、私の身長が高いことを責めはじめた。そうして容姿を貶すことで自分を、上げた気になっていった。
「デカブツ女が……。そこをどけ。大体俺の補佐をするのがお前の仕事だろうが」
「私はあくまで副会長……。補佐です。主な部分は貴方がしてくれないと……」
「うるさい!どけ」
私を手荒に押し除けて、ハロルドは執務室を出ていく。
急いで追いかけて、階段の前で彼の腕を掴んだ。
「いけません!」
「うるさい!」
思い切り、彼が私の手を振り払った瞬間。
私はバランスを崩し、宙に放り出された。
落ちていく私を、彼は驚いたように見つめていたが、私の手を掴もうとはしてくれなかった。




