第17話 ジシャコウ ④
「えっ、えっ? そういえば、さっき間に合わないとか……えっ、何のバスが来るの?」
美希果の声につられ、ジュンジは慌てながら納豆でねばねばになった箸を口でねぶる。
「はぁ、何って……ジュンちゃん、ジシャコウに行くんでしょ?」
こいつは何を言ってんだ、と心の声を浴びせるように美希果は鋭い視線を向ける。
ジュンジはその心の声を察知し、恐怖で固まる。
「ジシャコウ?」
ジュンジの隣で、小声で繰り返すノブオも、そのワードの意味が全く分からない。
「ジシャコウって何です……かっ、はぁ、うぅっ……」
ジュンジが言い終わる前に、不意に胸の辺りに強烈な振動が走った。
思わず、パジャマの胸ポケットを両手で抑える。
なんとも情けない声を上げ、ジュンジは恥ずかしさでいっぱいだったが、雅親は楽しそうにクスクスしている。
ポケットには何か、硬いものが入っていた。
「あっ、これ……きよちゃんのポケベルだ! えぇ、こんなところに入れた覚え、全然ないんだけど……」
どれどれ、とノブオがジュンジからポケベルを受け取る。
ノブオは大きなレンズを上げ下げしながら、何かを読み取ったようだ。
「TELして、きよ。だってさ」
ノブオは得意げに言うと、ジュンジにポケベルを返した。
「えっ? これ数字が並んでるだけなのに、電話番号とかじゃなくて??」
返されたものを不思議そうに見つめながら、ジュンジは尋ねる。
「違うんだな、これが。昔よく暗記したのよ、早打ちとかしないといけないしな」
「はぁ、そうなんですか……でも僕きよちゃんの電話番号、知らないけどな……」
ジュンジは力なく、小さくつぶやいた。
「えー、ポケベル? 流行ってたよね、私は持ったことなかったけど」
食器を片付け始めた美希果は手を動かしながらも、目を丸くしている。
「俺は二台持ちしてたんだぜ!!」
ノブオはさらに得意げだ。
それをよそに、ジュンジはフラフラと立ち上がると、後ろのガラス戸から廊下に出た。
「じゃぁ、ちょっと電話してきます。番号、分かるかな……」
ぶつぶつ言いながら、ジュンジは二階のあてがわれた部屋に行くため、階段を上る。




