第16話 座敷ハタチと淑女の出会い(三) ①
美希果の父が失踪したのだ。
ある日、母と些細なことでケンカをし、散歩に行ったと思ったらそのまま帰らなかったのだ。
「父さんは母さんとケンカすると、いつも散歩に出るの。しばらくしたら何事もなかったみたいに帰ってきて、母さんも同じように何事もなかったみたいに接して、一緒に夕飯を食べるんだけど……どうして、あの日だけは違ったのかしら……」
目を潤ませながら、独り言のように美希果は言った。
「だよな……俺も、いつも通り父さんは帰ってくるもんだと思ってた」
そうして、今に至るまで結局、美希果の父の行方、消息は一切わからないままだ。
母と美希果はそれでも、生きていかなければならない。
二人は、いつ父が帰って来てもいいようにと思いながら、変わらない生活を続けていた。
ところが、父が帰る前に母は、病に倒れ亡くなってしまった。もう五、六年前のことだ。
ついに、美希果と雅親の二人だけになってしまった。
「この時は本当に……辛かったよな」
「うん……本当に……でも、雅ちゃんがいてくれたから、すごく救われたよ。雅ちゃんもいなかったら、私は一人ぼっちだった……」
何かを思い出しているように、美希果はつぶやいた。
「はぁ、辛いよな……」
こうして、美希果と雅親の二人だけの生活が始まった。
美希果は母が生きていた時と同様、スーパーセンターへ出勤する。
食事も雅親のために三食作り、洗濯や掃除などの家事もこなす。雅親も何か手伝えることはやろうと思っていたのだが、美希果にはそんな隙など皆無だった。
雅親には、美希果が無理をしているだろうことはよくわかっている。
悲しいという感情を殺すために、忙しく自分を追い込んでいる……そんな美希果を見るのはとても心苦しかった。
「だからさ、俺……我慢できなくなって聞いちゃったんだよ」




