経営改革と命を守る手段
魔導都市フィレンツェの朝は、霧に包まれていた。
魔導塔の尖端が白く霞み、街の水路には冷たい風が流れていた。
魔導喫茶ピッコロッソの扉が開くと、神月が魔導端末を片手にカウンターへ歩み寄った。
「葉月、今月の収支、赤字よ。しかも、かなり深刻」
葉月は魔導焙煎器の火を調整しながら、苦笑した。
「まあ、魔導カフェって儲かる仕事じゃないしね。でも、そろそろ何か手を打たないと」
星月は窓辺で魔導銃の手入れをしていたが、神月の言葉に目を向けた。
「経営改革か?」
神月は端末を操作しながら頷いた。
「そう。私が経理を担当する。まずは新メニューの開発と、魔導塔の観光客向けの販促を強化する」
葉月は紅茶を淹れながら言った。
「じゃあ、魔導スイーツで勝負ね。私、魔導蜂蜜を使ったケーキを試してみたい」
その日、喫茶店の厨房では葉月が魔導蜂蜜と魔導粉を混ぜ、魔力で発酵させたケーキを焼いていた。
星月は厨房の隅で皿を並べ、神月は魔導端末で販促用の魔導広告を作成していた。
グランデロッソはカウンターで魔導式クッキーをつまみながら、静かに言った。
「魔導塔の観光客は増えてる。でも、あそこには記憶が眠ってる。葉月の過去も、ね」
葉月はケーキを焼きながら、ふと手を止めた。
「魔導塔…あそこは、私が初めて魔導心臓を動かした場所。あの時、私は誰かの命を奪った」
星月は葉月の背中を見つめながら言った。
「それでも、あなたは今、命を守っている。それは、誰かのためじゃなく、あなた自身の選択だ」
神月は魔導端末を操作しながら呟いた。
「記憶は消せない。でも、上書きはできる。今のあなたが、過去を塗り替えてる」
葉月はケーキの焼き上がりを見つめながら、静かに言った。
「経営って、魔導より難しいかも。でも、誰かの時間を守るためなら、やってみる価値はある」
その夜、喫茶店には新メニューの魔導蜂蜜ケーキが並び、客たちの笑顔が広がっていた。
葉月はカウンターで紅茶を淹れ、星月は窓辺で外を見つめ、神月は端末を操作し、グランデが魔導式クッキーをつまんでいた。
ピアノとストリングスが、夜の空気に溶けていく。
魔導都市の夜空には、星が瞬いていた。
喫茶店の窓から見えるその光は、どこか穏やかで、そして優しかった。
魔導喫茶ピッコロッソの一日が終わる頃、葉月はカウンターでケーキを切り分けながら言った。
「守るって、戦うことだけじゃない。誰かの居場所を作ることも、命を守る手段なのよ」
星月は紅茶を受け取りながら、ほんの少しだけ微笑んだ。
空に浮かぶ大図書塔の影が、魔導都市フィレンツェを静かに包んでいた。
次回、葉月の命に限界が迫る。
魔導心臓の寿命と、騎士団への復帰の条件。
星月は「あなたの命を守るためなら、私は何でもする」と誓い、
葉月は「それでも、私は戦わない」と答える。
魔導喫茶の双花 〜選ばれた命と選び直す未来〜、次回もお楽しみに。
その夜のエンドカードには、厨房で葉月が魔導蜂蜜ケーキを焼き、星月が皿を並べる姿が描かれていた。
背景には魔導都市の夜景が広がり、星が静かに瞬いていた。




