過去と魔導支援者
魔導都市フィレンツェの空は、重たく曇っていた。
魔導塔の尖端が霧に沈み、街の水路には冷たい風が吹き抜けていた。
魔導喫茶ピッコロッソの扉が開くと、葉月はカウンターで魔導焙煎器の火を落としながら、静かに呟いた。
「今日、あの人が来るかもしれない」
星月は魔導銃の手入れを止め、葉月の言葉に目を向けた。
「誰のことだ?」
「私に魔導心臓を与えた人。アドニムーン機関の支援者──サルヴァトーレ・ガリレイ」
神月が魔導端末を操作しながら言った。
「都市の魔導網に、彼の痕跡があった。喫茶店の近くに現れる可能性が高い」
葉月は紅茶を淹れながら、窓の外を見つめた。
「彼は、私の命を選んだ。でも、私はその選択に納得していない」
その午後、喫茶店に現れたのは、黒いローブを纏った男だった。
彼は静かにカウンターに座り、葉月に向かって言った。
「久しぶりだね、葉月。君は、よく生きていた」
葉月は紅茶を差し出しながら答えた。
「あなたの選んだ命よ。でも、私はそれを拒んだ。私は、誰かの道具じゃない」
男──サルヴァトーレは微笑みながら言った。
「君には、殺す才能がある。それを活かすために、魔導心臓を与えた。君は、選ばれた存在だ」
星月は男の言葉に眉をひそめた。
「命を選ぶ? それが支援だというのか?」
サルヴァトーレは静かに立ち上がり、葉月に向かって言った。
「君が望むなら、心臓の調整をしてやろう。君の命は、あと数ヶ月しか持たない」
葉月はその言葉に動揺しながらも、静かに答えた。
「私は、選ばれた命なんかじゃない。私は、自分の意思で生きてる」
その夜、葉月は喫茶店の屋上に立ち、魔導都市の夜景を見下ろしていた。
星月が隣に立ち、静かに言った。
「それでも、あなたは生きている。誰かの選択じゃなく、自分の意思で」
葉月は微笑みながら答えた。
「ありがとう、星月。あなたがいてくれて、よかった」
喫茶店の店内では、神月が魔導端末を操作し、グランデロッソが魔導式クッキーをつまみながら、静かに葉月の背中を見つめていた。
魔導都市の夜空には、星が瞬いていた。
喫茶店の窓から見えるその光は、どこか儚く、そして優しかった。
魔導喫茶ピッコロッソの一日が終わる頃、店内には静かな音楽が流れていた。
葉月が紅茶を淹れ、星月が窓辺で外を見つめ、神月が端末を操作し、グランデが魔導式のクッキーをつまむ。
ピアノとストリングスが、夜の空気に溶けていく。
空に浮かぶ大図書塔の影が、魔導都市フィレンツェを静かに包んでいた。
次回、魔導喫茶ピッコロッソの経営危機。
神月が経理を担当し、新メニューで黒字化を目指す。
葉月は「魔導スイーツで勝負よ!」
と笑い、星月は「数字は苦手だ…」
と呟く。
魔導喫茶の双花 〜選ばれた命と選び直す未来〜、次回もお楽しみに。
その夜のエンドカードには、屋上で葉月と星月が並んで夜空を見上げる姿が描かれていた。
背景には魔導都市の夜景が広がり、星が静かに瞬いていた。




