護衛任務と幻の魔導士
魔導都市フィレンツェの朝は、霧に包まれていた。
街路の石畳が湿り気を帯び、魔導塔の影が長く伸びる。
魔導喫茶ピッコロッソの扉が開くと、葉月の軽やかな声が店内に響いた。
「おはよう、星月。今日も魔導カフェは元気よ」
星月は無言で頷き、カウンターの奥に座った。
昨日の転属以来、彼女はこの喫茶店の空気にまだ馴染めずにいた。
葉月はそんな彼女に、魔力入りのミントティーを差し出す。
「飲んでみて。頭がすっきりするわよ」
その時、喫茶店の扉が再び開き、神月が魔導端末を片手に現れた。
彼女は無表情のまま、葉月に向かって言った。
「依頼が来たわ。護衛任務。対象は“フランチェスコ”」
葉月は眉をひそめた。
「あの幻の魔導士? 都市伝説かと思ってたけど、本当にいたのね」
神月は端末を操作しながら説明を続ける。
「彼は魔導ネットワークの深層に潜り込み、都市の魔導情報を操っている。敵対組織に狙われているらしい。依頼主は匿名だけど、報酬は高額」
星月は立ち上がり、魔導銃を腰に装着した。
「護衛任務なら、私が行く」
葉月は微笑みながら言った。
「もちろん一緒に行くわ。ピッコロッソの仕事は、命を守ることだから」
その日の午後、三人は魔導都市の地下路へ向かった。
フランチェスコとの接触地点は、廃棄された魔導倉庫。
霧が立ち込める中、葉月は非殺傷魔弾を装填し、星月は周囲を警戒する。
倉庫の奥に、フードを被った小柄な人物が立っていた。
彼がフランチェスコだった。
だがその瞬間、魔導爆弾が炸裂し、敵の魔導士たちが現れた。
葉月は素早く魔導弾を放ち、星月は銃撃で応戦する。
「神月、出口を探して!」
葉月が叫ぶ。
神月は魔導端末を操作し、倉庫の構造を解析する。
「南側に非常口がある。急いで!」
戦闘の中、フランチェスコは敵の魔導弾を受け、倒れた。
星月が駆け寄ると、彼の身体は魔導霧に包まれ、消えた。
「死んだ…のか?」
星月が呟く。
葉月は首を振った。
「違う。これは偽装。彼は生きてる。姿を変えて逃げたのよ」
その夜、魔導喫茶ピッコロッソに戻った三人は、店の奥で再び集まった。
神月が魔導端末を操作し、映し出した映像には、喫茶店の裏口から入ってくる少女の姿があった。
「彼女がフランチェスコの正体よ。名前はグランデロッソ。魔導解析の天才。年齢は不詳」
葉月は驚きながら言った。
「まさか、こんな小さな子が…」
グランデはカウンターに座り、魔導端末を取り出した。
「ここなら安全ね。しばらく匿ってもらえる?」
葉月は笑顔で答えた。
「もちろん。魔導喫茶ピッコロッソへようこそ」
その夜、喫茶店には静かな音楽が流れていた。
葉月が紅茶を淹れ、星月が窓辺で外を見つめ、神月が端末を操作し、グランデが魔導式のクッキーをつまむ。
ピアノとストリングスが、夜の空気に溶けていく。
魔導都市の空には、星が瞬いていた。
喫茶店の窓から見えるその光は、どこか懐かしく、そして優しかった。
空に浮かぶ大図書塔の影が、魔導都市フィレンツェを静かに包んでいた。
次回、星月は騎士団への復帰を願い、模擬戦に挑む。
だが、そこに待っていたのは冷たい拒絶と、葉月との絆の試練。
魔導喫茶の双花 〜選ばれた命と選び直す未来〜、次回もお楽しみに。
その夜のエンドカードには、喫茶店のカウンターでグランデが魔導端末を操作し、葉月が紅茶を差し出す瞬間が描かれていた。
背景には魔導都市の夜景が広がり、星が静かに瞬いていた。




