新たな旅立ち
魔導都市フィレンツェの空は、静かに晴れていた。
魔導塔の尖端は朝陽に照らされ、都市の水路には穏やかな魔力の流れが戻っていた。
魔導喫茶ピッコロッソの扉はすでに閉じられ、店内には誰もいなかった。
昨日までの喧騒が嘘のように、そこには静寂だけが残っていた。
葉月は、魔導塔の最深部での戦いから一命を取り留めていた。
グランデロッソの解析によって、予備の魔導核が起動され、心臓は再び鼓動を刻み始めた。
だが、それは永遠ではない。
彼女はそれを知っていた。
星月は騎士団の任務を終え、葉月のもとへ戻ってきた。
彼女の瞳には、戦いの疲れと、守り抜いた誇りが宿っていた。
「葉月、次はどこへ行く?」
葉月は振袖の裾を整えながら、静かに答えた。
「南の魔導諸島。あそこなら、少しのんびりできるかもしれない。魔導カフェを開くのも、悪くないわ」
星月は少し黙った後、問いかけた。
「それは…逃げじゃないの?」
葉月は窓辺に立ち、都市の空を見上げた。
「違う。これは、選び直す旅。私は、誰かに選ばれた命として生きてきた。でも、これからは自分で選びたい。命の使い方も、未来も」
神月は魔導端末を閉じながら言った。
「経理は任せて。魔導諸島の税制、調べておいたから」
グランデはクッキーをつまみながら、笑った。
「じゃあ、私は魔導広告担当ね。観光客向けに“癒しの魔導紅茶”ってどう?」
その日、四人は喫茶店の荷物をまとめ、魔導船に乗り込んだ。
船は静かに水路を進み、都市の境界を越えていく。
葉月は甲板に立ち、風を受けながら静かに目を閉じた。
「私は、選ばれた命として生きてきた。でも、それは誰かの選択だった。これからは、自分の意思で生きたい」
星月は隣に立ち、彼女の手を握った。
「その言葉、信じる。あなたとなら、どこへでも行ける」
魔導船が都市を離れると、空に花火が打ち上がった。
それは、マジマ・ガリレイが仕掛けた爆弾が、神月の魔導干渉によって変換されたものだった。
都市の人々は空を見上げ、静かに拍手を送った。
ピアノとストリングスが流れ、魔導船の航跡が水面に光を描いていく。
葉月は紅茶を淹れ、星月がそれを受け取り、神月が航路を確認し、グランデが魔導式クッキーをつまむ。
魔導都市フィレンツェの夜空には、星が瞬いていた。
喫茶店の窓から見えるその光は、もう彼女たちのものではなかった。
だが、記憶の中には、いつまでも灯っていた。
魔導喫茶ピッコロッソの物語は、ここでひとつの幕を閉じる。
その夜のエンドカードには、魔導船の甲板で葉月と星月が並び立ち、南の空を見つめる姿が描かれていた。
背景には魔導都市の夜景が遠くに広がり、星が静かに瞬いていた。
オープニングでは、魔導都市の朝が描かれ、葉月が紅茶を淹れ、星月が銃を構え、神月が端末を操作し、グランデが笑顔でクッキーを差し出す。
最後は四人が並んで魔導船に乗り込むシーンで締めくくられる。
エンディングでは、南の魔導諸島の風景が流れ、新しい喫茶店の準備をする四人の姿が描かれる。
葉月が看板を掲げ、星月が椅子を並べ、神月が帳簿を開き、グランデが魔導式の旗を振る。
最後は、店の前で四人が並び、空を見上げる。
次回予告はない。
物語は、ここで終わる。
そして、始まる。




