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閉店と振袖の約束

魔導都市フィレンツェの空は、冬の気配を帯びていた。

魔導塔の尖端が白く光り、街の水路には冷たい風が流れていた。

魔導喫茶ピッコロッソの扉が開くと、葉月はカウンターの奥で魔導焙煎器の火を落としながら、静かに言った。


「閉店することにしたの。魔導喫茶ピッコロッソ、今日が最後」


星月は窓辺で魔導銃の手入れを止め、葉月の言葉に目を向けた。

「理由は?」


「魔導心臓の寿命が近い。それに、みんなそれぞれの道を歩き始めてる。私も、次に進まなきゃ」


神月は魔導端末を操作しながら言った。

「経理的にも限界だったしね。でも、最後の日くらい、笑って終わりたい」


グランデロッソはカウンターで魔導式クッキーをつまみながら、静かに言った。

「この場所は、記憶になる。それだけで十分」


その日、喫茶店には常連客が次々と訪れ、最後の紅茶を味わっていた。

葉月はカウンターで紅茶を淹れ、星月は厨房で皿を並べ、神月は魔導端末で閉店の告知を流していた。


夕方、葉月は奥の部屋から一枚の振袖を取り出した。

深紅の布地に金糸で魔導紋が刺繍されたそれは、かつて育ての親──アンナ・ガリレイ──が贈ってくれたものだった。


「これ、着てみて。あなたに似合うと思う」


星月は振袖を受け取り、静かに袖を通した。

鏡の前に立つ彼女の姿に、葉月は微笑んだ。


「綺麗よ。あなたは、私の誇り」


その夜、葉月はアンナと再会した。

彼女は喫茶店の裏口に現れ、静かに葉月を抱きしめた。


「よく生きてくれたね。あの時、あなたを選んだこと…後悔してない」


葉月は涙をこらえながら言った。

「私は、あなたに守られてここまで来た。ありがとう」


喫茶店の灯が落ちる頃、葉月はカウンターに立ち、最後の紅茶を淹れた。

星月がそれを受け取り、神月が魔導端末を閉じ、グランデがクッキーをつまむ。


ピアノとストリングスが、夜の空気に溶けていく。

魔導都市の夜空には、星が瞬いていた。

喫茶店の窓から見えるその光は、どこか穏やかで、そして優しかった。


魔導喫茶ピッコロッソの最後の一日が終わる頃、葉月はカウンターで振袖を整えながら言った。


「この場所が、私のすべてだった。でも、未来はまだ続いてる」


星月は紅茶を受け取りながら、ほんの少しだけ微笑んだ。


空に浮かぶ大図書塔の影が、魔導都市フィレンツェを静かに包んでいた。


次回、魔導塔の占拠と、人工心臓の謎。

グランデが心臓の秘密を解き明かし、星月は葉月の命を救うため奔走する。

葉月は「私は、誰かの選択じゃなく、自分の意思で生きたい」

と語り、星月は「その命、私が守る」

と誓う。


魔導喫茶の双花 〜選ばれた命と選び直す未来〜、次回もお楽しみに。


その夜のエンドカードには、振袖姿の葉月がカウンターに立ち、星月が紅茶を受け取る瞬間が描かれていた。

背景には魔導都市の夜景が広がり、星が静かに瞬いていた。

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