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静寂の街と転属令嬢

魔導都市フィレンツェの空は、今日も静かに曇っていた。空に浮かぶ大図書塔の影が街を覆い、魔導の気配が微かに揺れている。


治安維持組織《聖花騎士団》の本部では、冷たい空気が流れていた。

星月は、騎士団の魔導銃を携え、無表情のまま上官の言葉を聞いていた。


「命令違反の責任を問う。お前は本日より、魔導喫茶ピッコロッソへ転属となる」


その言葉に、星月は眉ひとつ動かさず、ただ「了解しました」

とだけ答えた。


彼女は任務中、仲間を救うために独断で魔導弾を放ち、敵を殲滅した。

それは騎士団の規律に反する行為だった。

だが、彼女にとっては当然の選択だった。


転属先は、都市の片隅にある喫茶店──魔導喫茶ピッコロッソ。

そこでは、かつて騎士団でも天才と呼ばれた魔導士、葉月が店主を務めていた。

葉月は今、非殺傷魔弾を使い、依頼人の問題を穏やかに解決することを信条としていた。


星月が喫茶店の扉を開けた瞬間、魔導焙煎器の香ばしい香りが鼻をくすぐった。

店内は木造の温もりに包まれ、魔導ランプが柔らかく光っていた。

カウンターの奥で、葉月が笑顔で紅茶を淹れていた。


「ようこそ、魔導喫茶ピッコロッソへ。今日のおすすめは、魔力入りカモミールティーよ」


星月は無言で店内を見渡し、葉月の言葉に「私は騎士団の任務で来ただけです」と冷たく返した。

葉月は肩をすくめ、

「まあまあ、そんな顔しないで。ここでは、命令よりもお茶が優先よ」

と軽口を叩いた。


その日、喫茶店に舞い込んだ依頼は、地下魔導路で発生した魔力暴走事件の調査だった。

葉月は星月を連れて現場へ向かい、非殺傷魔弾と軽快な体術で暴走魔力を鎮めていく。


星月はその戦い方に疑問を抱いた。

「なぜ、殺さない? 敵は魔導犯罪者だ」


葉月は魔導弾を収めながら答えた。

「命を奪うのは簡単。でも、それじゃ何も変わらない。私は、守るために戦ってるの」


その言葉に、星月はかつて自分が失ったものを思い出した。

任務に忠実であることが正義だと信じていた彼女の心に、葉月の信念が静かに染み込んでいく。


夜、喫茶店に戻った星月は、葉月と共に魔導カフェの営業を手伝うことになった。

魔導焙煎器から立ち上る香り、客たちの笑顔、そして葉月の軽やかな接客。

そこには、騎士団では味わえなかった穏やかな時間が流れていた。


カウンターの奥では、魔導解析士として名高い神月が魔導端末を操作していた。


彼女は魔導ネットワークを駆使し、都市の情報を収集・解析する役割を担っていた。


星月は彼女に

「ここで私は何をすればいい?」

と問いかけた。


神月は端末から目を離さず、

「まずは、葉月の紅茶を飲んでみることね。あれは、魔導よりも効くわよ」

と答えた。


葉月はカップを差し出しながら言った。

「まずは、魔導カフェの一員として、心をほぐすことから始めましょう。戦うだけが騎士じゃないわ」


星月はその言葉に、ほんの少しだけ微笑みを返した。


魔導都市の夜空には、星が瞬いていた。

喫茶店の窓から見えるその光は、どこか懐かしく、そして優しかった。


魔導喫茶ピッコロッソの一日が終わる頃、店内には静かな音楽が流れていた。

葉月がカウンターで紅茶を淹れ、星月が窓辺で本を読み、神月が魔導端末をいじる。

静かなピアノとストリングスが、夜の空気に溶けていく。


その夜、空に浮かぶ大図書塔の影が、魔導都市フィレンツェを静かに包んでいた。


次回、魔導喫茶ピッコロッソに舞い込むのは、伝説の魔導士フランチェスコ──いや、神月の知り合いらしい。

護衛任務は波乱の予感。

葉月は「まあ、私に任せておけば大丈夫よ」

と笑い、星月は「面倒なことになりそうね」

と呟く。


魔導喫茶の双花 〜選ばれた命と選び直す未来〜、次回もお楽しみに。


その夜のエンドカードには、魔導喫茶のカウンターで葉月がカップを差し出し、星月がそれを受け取る瞬間が描かれていた。

背景には魔導都市の夜景が広がり、星が静かに瞬いていた。

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