【短編】神隠し【スピンオフ2】長門清継の受難
本編のネタバレを含みます。
本編2章を読み終わってからが推奨。
気にしない方はコレはコレで単品で読めるようにはなっています。
俺の名前は長門清継。名前から分かるように日本人だ。
いや、日本人だったというべきか。
女の子にカッコイイところを見せようと思って身体を張ったら、あっさりと刺し殺された。
そして今に至る。
俺、豚頭族になりました。
体毛とか金色でいかにも特殊な豚頭族です。周囲の同年代の豚頭族はこんな色していない。年上世代にも当然いない。
当然俺を産んだ雌の豚頭族、つまり母親もいる訳だが、授乳がきちぃ。精神的に死にそう。感受性を殺して無になる技術が必要なレベル。
やっと授乳生活から脱したかと思ったら、虫や幼虫を磨り潰した離乳食が待ってました。食事がきちぃ。正直食べたくないが食わなきゃ死んでしまう。俺は真剣に精神を無にする訓練をはじめた。
豚頭族の特性なのか、ぐんぐん背が伸びる。生まれて二ヶ月くらいで立派な男の子(豚頭族)に育った。大人程ではないがなかなか立派な体躯ではないだろうか。
それと、一月前に離乳食から焼いた肉に食事が変わった。
何の肉だか想像もしたくないが、虫や幼虫を磨り潰した離乳食より全然いける。いや、味付けとかなにそれって感じで全然美味くないんだけどね?精神的に少し楽になった。たまに果実もある。これは普通に美味しい。何の憂いもなくムシャムシャしてる。
集落の中を自由に動けるようになると集落が森の中にあることがわかった。今は竪穴式住居な家だが、これだけ木があるなら、木材で家とか作っちゃいたい。文明開化は必要だよ。だって集落の中、不衛生で臭いし。まずは木材を切り出すための斧が必要か。
集落の中の武器庫になっている竪穴式住居の中で、若干錆が浮いているが立派な戦斧をみつけた。俺はその戦斧を担いで樹木の伐採をはじめた。
この頃になるとデカい豚頭族二体が子分になって、あれこれと指示を出すと不器用なりに頑張ってくれている。豚頭族の社会に文明開化も近いかもしれない。
最近、俺に雌の豚頭族達が寄ってくる。これはアレだ、交尾のお誘いだ。ごめんまじ無理。無理よりの無理に振り切れて無理中の無理だって。
最近朝には元気になっている我が分身がぴくりとも反応しない。そりゃそうだわな。日本人の記憶と感性を持ったままの俺、豚頭族だよ?だからといって豚頭族の雌に発情なんてできないって。分身がムラムラすることも増えたが雌の豚頭族をみると普通に萎える。俺はきっと人間や耳長族とかに種付けする豚頭族なんよ。
悲報。集落の爺から人間を孕ませることは出来ないと教わった。豚頭族同士じゃないと子はできないらしい。俺の遺伝子オワタ。折角超レアな金色豚頭族なのに。きっと素晴らしい遺伝子を残せるはずなのに。雌豚頭族をみては萎えに萎えて溜息が出る。
孕ませられないとしても行為はできるはずだ。うん、人間の女を手に入れて俺専用に躾けよう。そうしよう。
そうと決まればと、子分二体に人間の雌を連れてくるように命令した。
身体付きが立派な例の二体はみごと人間の女を獲ってきた。絶命していて食材としてだったが。うん、無理。さすがに死体姦はハイレベル過ぎて無理っすわ。
森の中でたまに見つける人間が持っていた武器や防具を集め、自分用に改造しようと画策する。しかし鍛冶の経験なんか当然ないし、炉の火で熱して金床で鎚で叩いて鍛えるくらいのイメージしかない。金属を溶かせる程の炉ってどうやって作って何を燃料にすればいいのやら。
鍛冶のアレコレを悩みながら掘っ立て小屋を量産する。もうじき竪穴式住居は駆逐され、文明のあるっぽい集落が完成するであろう。
ある日、子分二体に頼んでおいた鉱山族の生け捕りに成功した。この鉱山族は俺専用とし、首輪と鎖で連れ歩くようになった。鉱山族と会話(?)して人間の言葉を覚える。俺、日本語と豚頭族語しかわかんねぇ。人間語の良い教材が手に入り大変満足である。
俺は鉱山族に鍛冶場作りの命令を下した。鉱山族は何度も逃げようとしたがその度に失敗して連れ戻されていた。
結局、鉱山族は立派な鍛冶場をこさえてくれた。鍛冶もやらせて槍や剣、鉈なんかを作らせている。あと俺専用に巨大な中華包丁みたいな物も作らせた。良いね、実に良い。専用武器。心が躍るじゃないか。
悲報。脱走を諦めた鉱山族が首吊って死んでいた。勝手に生産仲間と認めていただけに、少し寂しくおもった。遺体は丁重に葬るように伝えたが、丁重に作られた鍋の肉になって戻ってきた。俺は鍋をひっくり返して持ってきた豚頭族を殴りつけた。
鍛冶場は出来ている。鍛冶作業もみた。真似てあれこれ作ろうと思う。先ずは屑鉄のような古い武器防具を鋳潰して材料にし、豚頭族達の装備を整えることにした。
朝方、腰に違和感を覚えて毛布をめくると、雌豚頭族が分身を口に含んでいた。シチュエーションとしては男の浪漫、是非可愛い女の子にやってもらいたい起こし方。
しかし相手は雌豚頭族である。俺はマジ切れして雌の顔面の形が変わる程殴り続けた。ふぇぇ、前世も含めて初めての口淫が、ハジメテガ!雌豚頭族によって汚されちゃったよぉ!!
集落の周りに堀や塀を作り、砦化をはじめた。最近ひたすらムラムラする。そんな時は雌豚頭族の顔をみるか、何か作ることに打ち込むのが良い。
木材や鉱石やらをあれこれ比べて詳しく調査していた時、唐突に【鑑定】スキルが生えた。スキルがあるのかは知らんが、頭の中に調べたいことの内容が流れ込むように解るようになっていた。
それによると、俺は豚頭族であるが勇者だった。マジか。転生して勇者とか胸が熱いな。超主人公ポジションじゃん。豚頭族だけど。
子分二体は豚頭族王だったらしい。豚頭族王はかなり上位の個体で、群れを率いるリーダー的存在である。それが俺に付き従っているということは、勇者は王以上の存在と証明された。
それから半年も経たずに、人間が豚頭族討伐隊を送り込んできた。居た!居たよ人間の女が!!抑圧されてきた性欲が一気に高まるのを感じた。俺の分身も、ぎっちぎちに主張している。
折角作った砦だったが、人間の女は捕まえたい。俺は豚頭族達を率いて砦の外に布陣し、戦うことを宣言した。そして人間の女は生け捕りにして後でぐふふのお愉しみタイム、生の「くっ殺せ!」が聞けるに違いないという妄想で脳内がとても幸せになった。
結論。負けた。殺された。二度目の人生、憧れの童貞卒業はできなかったが、まぁ自由に生きた。悪くない。悪くない人生だった。
俺は再び生まれ変わった。小鬼だった。他の小鬼と違って紅い鬣が風に靡く。
今度こそ童貞卒業したい。でもどうせまた無理なんだろうな~。人間に狩られるんだろ?知ってる。
今度は群れより個の力を極めてなんかイイ感じに童貞卒業したい。人間が駄目なら淫魔とかいるやろ。うん、そっちの方向で探すか。イイ感じに人間っぽい魔物とのまだ見ぬ出会いに俺は咆哮をあげた。
今度こそ、今度こそ俺は!!
「童貞捨ててぇぇぇぇ!!」
(本編はこちら↓)
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