高校生の僕…僕に迫る死
大鬼丸は大きく右手を後ろに振りかぶり、遠心力をつけて、風を凪払うように僕に爪を振りかぶってきた。
え?
と僕は事態が飲み込めず、眼前に迫る鋭い切っ先を見て、呼吸を止めた。
鬼の爪が僕の体を切り裂く寸前、黒羽が僕の体を後ろに引っ張ってくれた。
鬼の爪は僕の左足を掠り、そのまま地面にブルドーザーのごとく擦り付けられる。
掘削されたような地面の跡から、鬼の爪の威力が伝わってきた。
「う、うわぁぁぁぁ!!」
僕は動転して、黒羽の身体にしがみついた。
かわせたと思っていたが、僕の左足の太ももの部分が、ぱっくりと切れ、そこから血が吹き出す。
僕はそこでケガをしたことに気づいた。頭が真っ白になって、全身の毛穴からどっと冷や汗が吹き出しはじめる。もはや痛みも感じない。ただひたすらに傷が熱い。
全身の血が逆流しそうだ。
黒羽は恐怖で動けない僕を引きずって、木陰に連れていく。
僕はがたがたとわななきながら、しゃがみこんで震える身体をさすり続ける。
嘘だろ?これは僕に都合のいい夢じゃないのか?
ただ、楽しい夢を見てるだけだと思っていた。
それなのに、死が眼前に迫っている。そのことに、僕の心は耐えられそうになかった。
さっきまでの高揚が嘘のように、僕の心は恐怖で支配されていく。
「あぁ…怖い…、怖い…、死ぬ…!」
僕が歯をがちがちと鳴らすと、隣で中腰になった黒羽は落ち着いた声で僕に声をかけた。
「晃くんはここにいて。俺が行ってくる」
黒羽はそう言うと、鬼炎刀を抜き、大鬼丸に向かって走り出す。
僕は涙を浮かべながら、黒羽の姿を見つめた。