高校生の僕…黒羽赤峯、現る①
僕は、漫画を描き終えた夜、疲れ切って、Gペンを握ったまま、机に顔をつけて眠り込んでしまっていた。
夜も更けてきたころ、浅い眠りの縁にいた僕は、ごそごそという物音が聴こえて、目を覚ます。
顔を上げると、開け放した窓の向こうから、こちらに向かって部屋に入り込もうとしている男がいた。
僕は驚きのあまり、ここが2階だということも忘れていたし、声を発するのも忘れて、その男を見つめた。
顔の右半分は焼けただれて、理知的な瞳をした学ランの男が窓から身を乗り出しているのだ。
「やぁ、文待晃くんだね」
男はやさしく、明瞭な声でそう言った。
「くくく、黒羽だ!!!」
僕は興奮のあまり、飛び上がった反動で前に倒れ込んだ。がしゃーんという音をたてて、机の上の画材が飛び散り、椅子が横倒しになる。
黒羽がそれを見て、きょとんとした顔をした後、窓から部屋に入って、僕の体を起こしてくれた。
紛れもなく、僕が描いた漫画の主人公の黒羽赤峯がそこにいた。
「大丈夫?僕の生みの親なんだからしゃんとしてくれなきゃ困るよ」
黒羽のからかうような口調に、僕の体はふわふわとした高揚感でいっぱいになった。
「うそ?!なにこれ、夢?!夢じゃないよね?!」
僕は、はっとして口をおおって、声を潜めた。聞き耳を立てたが、下で寝ている親は、起きてくる気配がないので胸を撫で下ろす。
改めて見た黒羽はイケメンという設定にしていたが、俳優をやっています、と言われてもおかしくないほど整った顔をしていた。
顔の右半分が焼けただれているのは、実際に見ると皮膚が引きつれ、グロテスクにも見える。なかなかインパクトがあるが、それが逆に絹のような白い肌とマッチして、黒羽の怪しげな魅力を引き立てているように見える。
「なかなか、いい設定にしたな、俺」
と、僕は黒羽を凝視し、監督ばりにふむふむ、とその顔を見つめる。
「うーん、どこからどう見ても、俺のイメージ通りだ…」
僕はひとり、噛みしめるように頷いたり、独り言を言ったりを繰り返した。
黒羽は落ち着かない様子で、そわそわと耳のあたりをいじっている。
「…なに?俺の顔に何かついてる?」
「うわぁ!声!その声だよ!わぁー、あの声優さんまんまじゃん!」
僕は思わず黒羽を両手で、ゲッツ!のように指さしてしまった。
黒羽の声帯は、僕が大好きな男性声優さんのそのままのものだった。
喋るたびにいい声が耳元で聴こえてきて、僕はあまりの気持ちよさに昇天しそうになる。
「すげー…。アニメじゃなくて生きてるよ。これが夢なら覚めなくていい」
僕は、自分の作ったキャラクターに、命が宿っていることに、この上ない快感を感じていた。
上から下まで、何度、学生服の彼を見ても見飽きないほどだ。
「晃くん、俺、本題に入りたいんだけど…」
「ちょっと待って!その前に刀見せて!」