花の好きな百姓
昔々、あるところに花の好きな百姓の男が居た。花が好きだったのはもともと彼の娘だったが、若いうちに死んでしまった。
男は家の庭に様々な花を植えたが、娘の一番好きだった花をどうしても植えることができなかった。
男は、庭に咲く様々な花について村人それぞれと話をした。春には桜、夏には向日葵、秋には菊、冬には牡丹。
男が亡くなって墓に入ると、村人はそれぞれが男と話をした思い出のある花を墓に供えるのだった。
「おまえの育てた花は、とても綺麗な花だったなあ」
「おまえはこの花が好きだったなあ」
そう言って、村人は墓に笑いかけた。
しかし、男の心のなかにあった花を供える者はだれもいなかった。
天国からそれを見ていた男は、村人に供えられたたくさんの花を抱えながら、
「こうして思い出して貰えるのは嬉しい、皆の気持ちは嬉しいが、俺のことを知るものはいなかった」
と、娘のことを笑い見た。
ついぞ、村人に娘を亡くしてどれだけ悲しいか打ち明けなかった父親を見て、村人と父を思い、娘は、
「おっとさんはよいことをしましたね。
たくさん綺麗な花を咲かせたから、良い思い出がたくさん人の心に残ったのね」
そう、そっと肩に手をやった。