神様の塔
ストーリーキューブ
「仮面・塔・天秤・鍵・橋・探索灯・弓矢・足・手」
をすべて使って物語をつくりましょう! というお題でした。
気分で仮面をつけかえている。
笑っている仮面をつければ私はごきげんな顔になり、かなしんでいる仮面をつければ、かなしい顔になる。仮面を取ったときの顔は真っ黒だ。私の顔にはもともと表情はないのである。
今よりだいぶ昔のこと。私は人間が好きで、人間たちに混ざって人間の村で暮らしていた。ところが人間たちは、村人に混じって暮らしている私に気づくと「化け物!」と叫んで塔の上に閉じ込めてしまった。
人間たちはあまりに私を恐れたので、塔の最上階の部屋の扉を板で封じ、まじないをした。しかし、塔の扉に鍵がなかったため、彼らは鍵をかけなかった。
私には木の板も、まじないも効果はなかった。しかし私は、人間たちを愛していた。だから自ら部屋に鍵をかけようと思った。
人間たちが扉につけた見た目の悪い木の板などは外し、暮らしやすい美しい部屋に作り変えた上で、魔術で錠をつくり部屋に鍵をかけた。そして仮面をつけず、つまり人間のふりをすることもなく、邪魔をされない快適な暮らしを送った。
何百年という月日が経って、塔の小窓から私は見る。森で迷った人間が、今にも崩れ落ちそうな古い橋を渡ってくるのを。彼は弓矢を背負い飢えた様子で、探索灯を手にしている。しばらくすると、階段を登る足音が聞こえはじめ、それはだんだんと近づいてくる。
私は数百年ぶりに仮面を手に取ると、顔を覆った。
忘れていたのは、扉に鍵をかけていたことだ。
矢を扱う音がして、私は身構えた。しかし何もおこらないので、錠を外し、扉をそっと押しあけてみて、それが彼自身を傷つけるためのものだったと知る。彼の首に矢が刺さっている。
旅人は飢え、最後の望みをこの塔に託し、登ってきたらしかった。
かなしい気持ちになった。しかし、私は笑った仮面をつけている。
手に分け与えるべき食糧を抱えて、足元で血を流す旅人を見つめている。
私は、人間を愛していることを思い出した。
私は私の天秤の傾く音を聞いた。
私は旅人のうでのなかにありったけの食糧を置くと、部屋に戻り、もろもろの準備をした。
そして旅人を蘇生して、彼が目覚める前に塔を去ることにした。手の中に、笑っている仮面とかなしんでいる仮面、2つの仮面を持って。
あの塔は今では、困っている人間を助けてくれる「神様の塔」として有名になったらしい。
塔の持ち主は、長年愛してきた者たちの近くで、ひっそりと暮らしている。