08.父という人間
私はそれからというもの、母とは最低限の話以外では
口をきかなくなった。
学校と塾と家を往復する毎日。
たまに父が天気の悪い日に車で送ってくれた。
私の好きな果汁100%のオレンジジュース。
小さいのに高くて、中学生の私には買えないから
この送り迎えの日は特別感があった。
無事に親の第一志望に合格し、
県立の千葉県立中央東高校に進学することになった。
県だと1番頭のいい偏差値68くらいの高校だ。
私からすれば、ピアノを弾けない時点で
どこでもいっしょなのだから
偏差値が40だろうが70だろうが
どーでもよかった。
母は合格した時は、満面の笑みで嬉しそうだった。
自慢の娘と言いふらして、謙遜しているフリをしながら
ペラペラとママ友達に教育方針など語っていた。
あんなことがあったのによくもそんなこと言えるな。
子どもをブランドのバックか何かだと思ってんだろうな。
心底軽蔑する。
母親を反面教師にしようと思ったのは
このくらいからだった。
父は、合格したことをとても褒めてくれて
ただ好きな道に行かせてあげられなくてごめんと
悲しい表情で、一言謝られたのがいまだに忘れられない。
両親が離婚してくれたら
父について行けば夢を叶えられるのかな
そんな悪いことまで考えてしまったほど
思春期の私にとってあの夜の事は
大きな出来事だった。
父は優しい。どんなことがあったって
怒ったり怒鳴ったり、否定はしない。
でも、母があんなに傲慢な性格になったのは
それもあると私は思っている。
でもちゃんと家に帰って
大学卒業までちゃんと乗り切ろうと思えたのは、
父がいたからだった。
大学を卒業してから、新卒で働いた給料で
父にはネクタイを買ってあげたりもした。
照れくさそうに、胸に当てて
『どうだ?似合うか?』と笑ってくれた。
今でもたまに連絡を取っている。
会うのは年末年始くらいだけど。
そんな過去があって、私は自分にも人にも期待しなくなってしまった。




