06.私は人形じゃない
中2の私は進路相談室で先生と話をしていた。
『あなたはどうしたい?本音は?』
先生は繰り返し、私の気持ちを確認してくれた。
正直、親よりもよっぽど親身に真っ当に向き合ってくれて
心が壊れないように支えてくれたのはこの人だ。
真中みずき先生。34歳で既婚。子どもはいないが優しくて穏やかな先生だった。
「私は…ずっと3歳から続けているピアノで食べていきたいと思っています。難しいことは理解してますが、チャレンジしてみたいんです。人生一度きりですし…若ければ途中から歩み直すこともでからと思ってます」
先生には素直に話せる。心の声。
先生は笑顔で話をしてくれた。
『とても良い夢ね!今の年齢でそこまで考えている人、少ないと思う。真剣にピアノに向き合いたいのね。素晴らしい。ただ、本当に難しい世界ではあると思うから、先生も未知だし、どんな道を歩むと近道だったり、可能性があるのかを音楽の先生にも相談してみるね。』
そんな提案をしてくれた。
この人に出会っていなかったら、夢を夢だと人に伝えることを一生せずに人生が終わっていたかもしれないなと思うほど、とても大切な出会いだった。
後日、放課後に先生から呼び出され
現実的な親も説得できる案を提案された。
『遥ちゃん、聞いてみたんだけどね?
ピアニストとして活躍するにも、やっぱりバックボーンは大事みたいなの。いわゆる学歴や実績と言われるものね。ピアノの歴はもちろん、コンクールの入賞した数や、出身の高校大学、音楽学科でどんな専攻だったか、留学して海外の音楽に触れたことがあるかなども。だから、音楽コースのある難易度の高い高校に入って学んで、推薦で良い音大に行くのが近道みたい!
大学によっては、優秀な成績を残せると
海外に姉妹校があったり、留学の資金も大学が出してくれるから、親御さんも反対しないんじゃないかな?』
この人に相談してよかったと本当に思ったし、
先生が話す内容なら、頭の堅い母も偏差値の高い高校、大学に行くわけだし、納得するかもしれない。
そう感じてワクワクしていた。
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2008年12月15日19:00ごろ
冷たい部屋で
頭の中にこだまする『…何を言っているの?』
また、いつものように気持ちを無視して繰り返されるセリフ。
『あなたはお姉ちゃんとは違うの。
良い成績を取って、良い学校を出て、
良い企業に就職して、ある程度の年齢で結婚して
幸せな家庭を築いて子供を産むのよ』
この時に私の心の糸が切れる音がした。
そこからはあまり記憶はないが、
多分、「私はお母さんの…人形じゃない…」そんなことを吐き捨てて号泣しながら、ジャージにマフラーだけをして
自転車で家から飛び出した。
泣きながらわけもわからず自転車を漕ぐ。
どこに向かっているわけでもなく、
携帯も財布も家に置いてきた。
ポッケにたまたま200円だけ入っていて
どこだかわからないけど、
24時間やってるファミレスにたどり着いたから
そこに入ってドリンクバーを飲んでいた。
ひたすら時間を潰す。
壁にかかる時計を見ると23時になっていた。
帰りたくない。どうしようかな。
そんなことを思っていた時、お店の人から声をかけられた。




