05.重い空気
特にこれといった趣味もない私は、
昔あることにどはまりしていて、本気でプロを目指していた。
中学2年の冬
私は自転車を漕ぎながら塾に向かった。
家から15分の距離すら遠く感じる。
塾の前には沢山の自転車が
乱雑に並んでいるのを見ると
なんだか自分と重なって心が重くなる。
先月までは何にも感じなかったのにな。
2008年12月15日
『…何を言ってるの?』
冷たく放たれた言葉が部屋の空気をひんやりとさせた。
あー。こういう感じか。
まともに会話ができると思った私が浅はかだった。
やっぱり私のことを所有物とでも思っているんだ。
この人は。
・・・私はここのところ数ヶ月ほど
どういう形で自分の夢を実現するために
今努力しているのかを
どう親に伝えるべきか模索していた。
理解のある親ならこんなこと日常会話で話せて
悩むことなんてないんだろうけれども
私の家は少し問題がある。だから悩んでいた。
家族構成は普通で、父・母・姉・私の4人家族。
父と母は、知人の紹介で知り合ったらしく
2年ほど付き合って結婚し、28歳の時に姉を出産。
その後、なかなか子供ができずに
5年後にやっとできたのが私だった。
父は、のほほんとして何も考えていない人だ。
否定も肯定もしないし、当たらず障らずという生き方。
どうせ会社でもこんな感じだから
35年勤めている会社でも昇進が遅いんだろう。
母は、真逆で責任感と自我の塊だ。
自分というものがなによりも正しいと思って揺らがない。
傲慢さすら感じることがある。
なぜ、この2人がまだ離婚していないのか分からないほどに相性が悪く感じる。
私は、基本否定から入る母の話し方が昔から大嫌いだった。
姉は、天真爛漫その言葉が妙に似合う。
見た目は周りからすれば美人らしく、
常に彼氏がいたし、好きなことを好きなようにしていた。
父は『楽しそうだなぁ』なんて笑顔で姉を見ていたが
母と姉は水と油。
姉が高校生の時には、毎日のように帰りの遅い姉に向かって怒鳴り散らしていた。
怒り狂っている母に対して、全く動じない。
というか、どんどん冷静になっていくのを感じる。
姉は涼しい顔で言った。
『だからなに?私は私だから好きなようにする。
私の人生に自分の理想を投影するの辞めてくれる?
お母さんは、欲深くて傲慢なのよ』
母親はさすがに堪えていたようだったが
その時から更に歪んだ気持ちや理想が私に向けられるようになった。本当にいい迷惑だった。
私からすれば、姉も母も紙一重だが。
『あなたはお姉ちゃんとは違うの。
良い成績を取って、良い学校を出て、
良い企業に就職して、ある程度の年齢で結婚して
幸せな家庭を築いて子供を産むのよ』
耳が腐るほど言われたセリフ。
きっとまた言われるんだろう、と
冷え切った部屋で私はそう感じた。
2014年高校卒業




