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рассвет  作者:
これはただの女子高生だった私がストーカーと『英雄』に出会った頃のお話
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これはただの女子高生だった私がストーカーと『英雄』に出会った頃のお話:DATA 1

 あのDMから1か月後。

 私はあいぽんの通知に脅えるようになっていた。

 布団に包まって、通知で青白く光り、振動するあいぽんを見るたびに体が震えるようになっていた。


『ずっと見てます』


『返事を待っています』


『先日ーーーに行っていましたよね』


 こんなDMがずっと届いている。

 最初はスパム程度にしか思っていなかった。

 ずっと半分無視をする漢字で過ごしていた。

 しかしある日、それがただのスパムではないことが判明した。

 写真が、送られてきた。

 私が学校から帰る途中の写真。

 制服を着て、いつものように猫背気味に歩く内気な私。

 複数の角度からの写真だった。

 前、後ろ、横。

 間違いなく、私だった。

 私は間違いなく、自分の写真などSNSに挙げたことはない。

 しかし、私のそのアカウントのDMに送られてきたのはリアルの私。

 状況を飲み込むのには数日を要した。

 しかし逃げられない現実。

 私は実感した。

 ネットストーカーの被害に遭っているのだと。

 時刻は6時。

 一睡もできていない。

 アラームを止めるがなかなか動けない。

 DMは一晩中通知を鳴らしていた。

 ブロックしても新しいアカウントを作ってもう一度やってくる。

 かといってアカウント自体を閉じることも憚られる。

 もちろんずっと運営してきたアカウントを思う気持ちもあるが、それよりも、相手の動きが分からない恐怖心からそれが出来ない。

 数度ブロックしたことを後悔したくらいだ。

 1週間ほどはそのうち収まると思っていた。

 しかし2週間と経っても終わらなかった。

 さすがに両親には気付かれた。

 顔色が悪いぞとパパンに問い詰められて全部話した。

 パパンママンは手を尽くしてくれた。

 警察にも付き添ってくれた。

 しかし警察は動いてくれなかった。

 実害が今のところ何もない事。

 迷惑行為というのならまずは相手と話し合ってくれと。

 3度ほど行ったが同じ返答だった。

 学校の方が安全だと休まず登校している。

 夜は眠れない。

 ゲーム配信なども活動を停止している。

 アカウントには療養とだけ告知してある。


「ミズキ」


 ママンの声が聞こえた。

 降りてこない私を心配したのだろう。

 布団から出て扉を開ける。


「大丈夫? 休む?」


 ママンの言葉に首を振って階段を下りる。

 洗面台に行って、歯を磨く。

 鑑には、酷い顔をした私が写っていた。

 ぼさぼさの髪に、荒れた肌。

 ただでさえ手入れに力を入れているタイプではなかったものがストレスでさらに荒れてそばかすが出来てしまっている。

 リビングへ。

 パパンに挨拶をして椅子に座る。


「今日学校が終わったらもう一度警察に行こう。職場の上司が今度弁護士を紹介してくれる。その時にももう一度行こう」


 パパンの言葉に私は頷く。

 声を出す気力もあまりない。

 申し訳ないと思いながらもそれ以外どうしようもなかった。

 食パンを食べて学校の用意をする。

 送迎をお願いしているために少し早めに学校を出る。

 両親もそのために以前より早めに起きているらしく、心から申し訳ない。

 準備して、両親に送迎してもらう。

 校内の職員駐車場まで入ってから降ろしてもらうのでストーカーの目もさすがに届くまい。

 心配そうな顔の両親を見送って職員入口から入る。

 務室の小窓の先生に会釈をして校内へ。

 先生には両親から精神的事情、ということで話してもらっている。

 お客様用スリッパを履いて、職員室に。

 担任の先生がいるか覗いて確認。

 大勢の人がいるところで声を出せる人間ではないので右往左往していると近くの先生が声を掛けてくれて用件を伝える。

 その先生が担任の先生を呼んでくれたので挨拶をして出欠を取ってもらって、職員室を後に。

 そのまま保健室へ。

 ここ二週間はもっぱら保健室登校だ。

 保健室の先生がいない時だけ教室へ行くという感じ。

 出来るだけ人目があるところにいるように意識している。

 そして17時半ごろに迎えに来た両親と共に学校を出る。

 そんな生活がここ最近の習慣。

 そして時間は経ってそこから数日後だ。

 私は例のごとく両親に送られながら早めの登校中だった。

 その日は私が寝坊してしまったので朝ごはんを買おうとコンビニに寄ってもらったのだ。

 人と目を合わせることがその時にはもうすっかりと怖くなってしまっていた私はゲームの本を読みながら視界を閉ざしながらコンビニに入った。

 非常識だとはわかっているが、本当にそれどころではなかった。

 両親もついてこようとしたがコンビニくらい大丈夫と言って待たずに車を出た。

 しかしレジが少し混んでいたので書籍コーナーで立ち読みをして少しタイミングをずらした。

 横目で数人のお客さんが出ていったのを確認。

 本を直して自分の本に切り替えてまた歩き出す。

 ジュース、パン、ついでにチョコチップスも取ってレジへ。

 振り返った所で私は強い衝撃を受けて地面に尻餅をついた。

 強い衝撃を受けた、と言ったがこの場合衝撃を与えたのは私だ。

 私が確認もせずに振り返ったのだから。

 しかし今はそんなことを言っている場合ではない。

 私は商品と本を地面にぶちまけてしまった。


「ご、ごめんな」


 さい、までは言えなかった。

 顔を上げた私は愕然とした。

 少し長めの髪を襟足付近で結んだ黒髪。

 体よりは大きめの黒に金色のラインが入ったパーカー。

 少し低めかと感じる168㎝ほどのジャージ越しに見える少し華奢な体躯。

 そして尖った目。

 その右目には黒い眼帯。

 左目だけで、尻餅をついた私を見下ろしている。

 眼球だけを動かして、見下ろしている。

 目ではない。

 その背中に、私は何か(・・)を感じていた。

 気配。

 オーラ。

 いい方などどうでもいい。

 私には黒い、禍々しい程の何かが揺れ動いているのが見えた(・・・)

 私は私が勝手にぶつかった相手なのに失礼なことにこう思ってしまった。


『殺される』


 全てにおいてこの人物からは『死』を彷彿とさせる何かを感じていた。

 その雰囲気に叩きのめされて私は、本当に申し訳ないのだが。

 嘔吐をしてしまった。

 ジュースコーナーのあの透明な扉の前で。

 胃液の酸っぱい匂いが私の周囲に充満する。

 奥から年配の男性が駆け寄ってくる。


「お客様!? どうされましたか!?」


 反応が出来ない。


「瀬戸君!? 何があったの!?」


 男性がジャージの男性にそう声を掛ける。


「知らん。勝手に尻餅をついて、勝手に泣きそうな顔をして、勝手にゲロった」


 めっちゃ事実だけを羅列するジャージの男性。

 慈悲などない。

 そんな感じだった。

 年配の男性が奥から恐らくバイトの方だろう大学生くらいの男性を呼んでくる。

 その人はすぐにトイレの方へ。

 掃除道具を取りに行ったのだろう。

 申し訳ない。


「ミズキ!」


 とその時パパンの声が聞こえた。

 さすがに遅いと思い様子を見に来たらしい。

 パパンが私の吐瀉物などお構いなしに私の前に入り込んでくる。

 ジャージの男性との間に入るように。


「あなたですか!?」


 父が私の肩を掴みながら首だけ振り返って叫んだ。

 ジャージの男性は答えない。


「一人にして済まない。今日は一緒に家にいよう」


 パパンが私の口を拭きながら言う。

 その時初めてジャージの男性がパパンに向けて口を開いた。


「何があった? 力になれるかもしれん」


 そう言って彼は掌サイズのバッジのようなものを提示した。

 それを見た私とパパンは口をそろえて言った。


「ロシア軍?」


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