これはただの女子高生だった私が軍人になるまでの話:DATA 16
お昼過ぎ。
私はへとへとになっていた。
洗い物が思った以上に大変だったのです。
お米ものがどうしても増える回転寿司屋さんの特性上、たくさん運ばれてくるお皿には全てお米が張り付いていた。
乾燥したそれは水に漬けていても全てはふやけず、コツコツしたものになり、なかなか取れない。
そして深い。
シンクの底の方は私の手では取れず、途中で厨房のおばちゃんが用意してくれたかき混ぜ棒で浮かせて取っていた。
次に洗浄機だ。
パレットに乗せていったお皿をスライドさせて投入。
蓋を下ろしたら自動で洗浄が始まるのだけれど、重いのです。
小さく飛ばないと下ろせないのです。
これを約二時間ほど。
正午を回り、お客さんの入りが凄く増えてきたころ。
店長さんの声掛けで私は事務所に戻ってきていた。
更衣室にて着替える。
お皿洗いはどうしても濡れる。
お腹が特に濡れる。
これは冬は大変そうだなと考え、労働の厳しさを身に染みて物思いに耽ます。
出来るだけ早く帰って、お風呂に入った方がいいかなと考えてると更衣室の扉がノックされた。
返事をすると、カーテンの向こう側で扉が開いたのがわかった。
何か袋のような音がした。
直ぐ扉が閉まる音がして、静けさが戻る。
ちなみに従業員用の鍵と掛札があるので部外者が入ってくることはない。
とりあえず着替え終わってカーテンを開けるとPCの前に’袋麺が置いてあった。
五袋入り。
味噌ラーメン。
音の正体はこれか。
付箋が貼ってあった。
『持って帰っちゃって 厨房のおばちゃんたちより』
神か?
私はそれを手に取り、退勤を押して事務所を出る。
丁度その時慌てたように店長さんがやってきた。
「あ、丁度良かった。お疲れ様。今日はもう上がっちゃって。で、次は来週末。出来れば二日とも出てくれたらいいかなと思うんだけどどうかな?」
多分忙しい時間帯に出てきてくれたのだろう店長さんは早口だった。
私は大丈夫ですと答えた。
店長は頷いて笑顔になった。
私に背を向ける店長さんを私は慌てて呼び止める。
手に持った袋麵を店長に見せる。
「あ、それね。貰ってあげて。君がラーメン好きらしいって話したらすぐに買って来たんだよ」
「お、お礼を」
「そういうのはね、すぐに言うよりも後日お礼を言う方がお互い気まずくならずに済むんだよ。じゃあまたね。お疲れさまでした。シフトに関してはまた後日改めて電話します。それ以降はシフト表に名前が載るようにするから確認してね。じゃ」
店長さんは小走りで戻って行った。
私はそれに頭を下げて見送る。
気配がなくなったのを感じて、私は頭を上げる。
お店を出て、駐車場へ。
割と大きなショッピングモールなので、多種多様な目的のお客さんが多く、駐車場はにぎわっている。
ベンチが空いていた。
端っこの方に座り、あいぽんを開き、師匠に連絡する。
「バイト終わりました」
メッセージアプリで送信すると十秒くらいで返信が来た。
「お疲れ。迎えに行くか?」
私は少し考えて、不要と伝えた。
何でも甘えていてはダメだ。
私は歩いて帰る。
師匠はそれには特に何も言わず、そうかとだけ言って、それ以降の返信はなかった。
私はあいぽんをしまい、歩き出す。
歩きスマホはしない主義です。
しかし、初めての労働は大変だった。
三時間の労働。
学校と比べると短いものだ。
しかし慌ただしく、知らないことだらけで、バタバタとした時間だった。
でもこの時間で私は二千円程の対価を得た訳だ(振り込まれてないのでまだ私は何も得れていない)
私はもしかして、今無敵なのではないか?(そんなことはないのである)
私はルンルン気分で歩く。
いい職場だなと感じている。
初日で、歓迎されたのももちろんだけれど、サポートもしっかりとしている。
でもそれだけいい人たちの職場なのだから極力その期待に添えるように頑張らねばならないということでもある。
これは次のシフトでも頑張らないと。
目標であるバイクの免許と車体にはまだまだ遠いが、少しずつだ。
「ん? あれ? ねえちょい」
イヤホンを差そうとしていると声を掛けられた。
すれ違った男性のようだった。
でも、私に友達はいないので、多分私ではないのだろうと思いつつ、いったんスルー。
私に何か用があるのならもう一度声がかかるだろうの投げやり精神。
外で誰かに声を掛けられるなんてまあないはずなので。
イヤホンを差して音楽を聴く。
今日はテンション少し高いのでジン〇ウガかな。
やはり二度目の声掛けはなかった。
以前のストーカー事件もあるので思い過ごしかもしれないが対策として基本的には無視していこうとは決めている。
少し歩いて振り返る。
背の高い、男性だった。
ちょうど向きを変えた所のようだった。
なんだか、見覚えがある気がする。
そんな気がしたけど、まあ考えても仕方ない。
私はイヤホンから流れる音楽のリズムに乗って速足で帰路に就く。




