表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
рассвет  作者:
これはただの女子高生だった私が軍人になるまでの話
21/29

これはただの女子高生だった私が軍人になるまでの話:DATA 08

 放課後。

 師匠は朝私に付き合ったことでノルマに届かなかったからと走りに出たらしく、迎えに来たのは奥さんの真琴さんだった。

 車に乗った真琴さん。

 私は助手席に乗った。

 とても大きい車。

 SUVだ。

 乗るのに苦労したので真琴さんに持ち上げてもらって乗った。

 ちなみに筋肉痛過ぎて教室からなかなか出れなかった私に気付いたたクラスの先生が保健室の先生と共に昇降口まで肩を貸してくれた。

 その間、先生同士で「なんだか宇宙人のあの写真みたいですね」「ああ、あのグレイマンの?」という会話をしていた。

 そこは「こうしていると親子みたいだな」とかではないんだなと。

 車の中で真琴さんは大きな車体をなんてことなさそうに運転している。

 大きなエンジン音を響かせて街中を走るSUV。

 SUVというか、オフロードカーというのだろうか?

 ていうか車体が大きすぎて私の目線では道路が見えないんですが。

 床にも足がつかない。

 まずい。

 私車の免許、取れないのでは?

 一人で落ち込む。

 私を見て気付いたのか真琴さんが小さく笑う。


「日本の免許制度の基準は知らないけど、バイクには身長制限ないんじゃなかったっけ? それに将来は都内とかで就職すれば車はいらないんだから今から悩むことないって」


 師匠もそうだが、よく見ただけで何に悩んでいるかわかるものだと思う。

 それに加えて、助言もつけてくれる。

 うーん。

 年齢でどうこう言うのはどうかと思うけどこの若さでそこまで気遣いできるようになれたら、大人としては大成功の成長だろう。

 真琴さんはすごく優しい。

 そもそも私みたいな部外者がお家に間借りしているのにそれを責める事も邪険にすることもなく家族として受け入れてくれている。

 もちろん私の両親が来た時にもしっかりと客人として扱ってくれている。

 あ、ちなみに両親は昨年度自衛官を退官。

 私にまた何かが起こった場合にすぐに対応できるように自衛官時代の知人に協力してもらい自営業という形で就労を始めた。

 もうそれも軌道に乗り始めて生活も安定し始めたので私は本来師匠宅から出てもいい。

 しかし私は師匠宅に戻った。

 まだ、師匠の事を知りたいと思ったからだ。

 もちろん執筆の指南もあるのだけれど。

 両親はそれを受け入れてくれて、師匠たちも文句を言わずに了承してくれた。

 もちろん年頃の娘を男性もいる家に預けることは、特にパパンは今も悩ましく思っている所はあるようだが、しかしそれ以上に師匠に対する信頼と実績があるし真琴さんが専業主婦で基本的に家にいるので間違いはそう起こるはずもない、とのことで了承をしてくれた。

 私は大人たちの好意に甘えてばかりだ。

 筋肉痛で動けなくなって迎えに来てもらっているなんてその良い例だ。

 良くはないか。

 まあともかく、師匠家族はとてもいい人で、私はいわばホームステイをさせてもらっている。

 そこで数々を学ばせてもらっている。

 私は真琴さんに「そうですかね」とあいまいに返事をする。

 真琴さんの切れ長の目が横目で私を見て目が合う。


「何か悩んでる?」


 真琴さんの声色が少し柔らかくなる。

 私は考える。

 いや考えたというほどでもなかった。

 それは躊躇だった。

 しかし。

 一瞬だけだった。


「師匠の仕事って何なんですか?」


 真琴さんは不思議そうに眉根を動かして。


「一応、作家?」


 と言った。

 私が真琴さんを見ていると小さく笑った。


「昔の仕事ってことだね」


 真琴さんは速度を緩めて車道の側方に車を止めた。

 コインパーキングだ。

 真琴さんはちょっと待っててと言って車から出た。

 近くのコンビニに入っていく。

 そしてすぐにスポーツドリンクとパンを買ってくる。

 それを私に渡してくる。

 お礼を言って受け取る。

 真琴さんはコーヒーだった。


「大輝は答えない?」


「はい。深くは」


「だろうね。だったら私も、十まで答えることは出来ない」


「そう、ですよね」


「でも、否定は出来るかも」


「否定、ですか?」


「質問を肯定は出来なくとも、質問に対してそれは違うと否定することは、止められていない」


 私は自然と体がピンと跳ねた。

 スポーツドリンクを一気に半分くらい飲み込んでのどを潤す。


「師匠の昔の仕事は一般職ですか?」


「NO」


 つまり公職。


「師匠は常識的な年齢から働いていますか?」


「NO。私もだけど年齢は十歳から」


 やはりか。

 しかし思った以上に幼い。

 私が十歳の頃なんて……ダメだ何もなさすぎる。


「師匠は平均的な職員でしたか?」


「NO。年齢的なものもあるけど最年少記録をいくつも出しているし、当時大輝の名前を知らない人間なんていないくらいの人間だった」


 レイチェル・コールドフィールドさんが言っていた「英雄」はそういう意味か。

 強いうえに、何かを成した人なのか。

 私は質問を重ねる。


「あの師匠の部屋にあるゴーグルは市販品、または一般企業が制作した物ですか?」


「NO」


 となると官品。


「服の下に隠している首の機械は?」


「NO」


 師匠の首にはチョーカーのようなものが付いている。

 ただのバンドではなく、左側にシャーペンの芯のケースを二枚重ねたくらいのサイズの箱のような物が取り付けられていて、そこの角の一つが薄く点滅している。

 加えてそれを隠すために伸ばしているのだろうか?伸ばした襟足に入れ込むようにケーブルというかコている。

 それに付いての質問だった。

 私は今、機械は?としか聞いていない。

 真琴さんはすごく知的で、知力を感じる。

 だからこれは恐らく優しさだろう。

 しかし彼女は否定の答を出した。

 あれは機械だという肯定になる否定だった。

 となるとあの機械は首から後頭部、耳付近に伸びている印象だった。

 血管などに何かを行う、医療機器?

 傷の質問もしたいが、ここはさすがに自重しよう。


「師匠は警察、または消防官、教職者などの公務員でしたか?」


「部分的に否定。警察、消防官、教職は否定」


 公務に携わっていたことは確定。

 それでいて、その年齢から働ける公務など存在しない。

 しかし、使われる事なら?


「師匠は、十歳からその仕事をしていましたか?」


「部分的にNO」


 十歳の段階ではその公務には属していなかった。

 真琴さんもか?

 公務ではないが、口振りからして同じ分野の世界にはいた。


「師匠の仕事は日の目を見ることはありましたか?」


「NO。それは失敗を意味する」


 かなり見えてきた。

 人知れず行動する仕事。

 まさか世直し業ではあるまい。

 これまでの質問を重ねて考える。

 もう答というか、私の予想から生み出された質問なのだから当たり前だけれど、真琴さんがうまい具合に私の予測に沿って答えてくれているのがわかる。

 私はほぼ結論に至る質問を投げかけた。


「師匠夫婦は共に、退役軍人ですか?」


 真琴さんは目を瞑った。

 質問には答えない。

 肯定は出来ない。

 否定は出来る。

 しかし否定もしない。

 それは、肯定だ。

 この年齢で退役軍人。

 レイチェルさんが英雄というほどの戦歴。

 この年齢で普通の形で入隊しているとしたら恐らく一等兵ほど。

 軍の高校卒業なら二等軍曹くらいか。

 しかしそれで特殊部隊に入れるほどの訓練課程を経れるとは思えない。

 だとしたら考えられるのは。


「師匠夫婦は共に、元少年兵ですか?」


 沈黙だった。

 それは、肯定だった。

 私の中で、何かが確定した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ